高濱コラム 2003年 10月号

おかげさまで、今年のサマースクールも無事終わりました。自然の中で遊ぶことはもちろん、親元を離れて、マナーと友情と元気を評価基準とした子供だけの異学年の寝泊りの中で、人間力・精神力の面で成長することを目標にしていますが、今年も良いシーンをたくさん目撃しました。

ある3年生の男の子は、川の自由遊び時間に、堰堤からの飛び込みに挑戦しました。一瞬の逡巡はあるけれど、最後はどうにか思い切って飛び込む他の子を横目に見ながらも、どうしても踏み出せない。縁に立ち尽くしてじいっと下をにらむ。ちょっと膝を曲げてみる。かぶりを振って引き下がる。これを小一時間繰り返していましたが、自分が嫌になったのかとうとう泣き出してしまいました。しかし、他の遊びに移るでもなくまだエッジに立っています。何とはなしに周りに仲間が集まってきて、いつしか「頑張れ!頑張れ!」の応援と拍手が沸き起こりました。そしてその声に押されるように、エイッと飛び降りたのでした。少し長い潜水の後、ぶはっと浮き上がってきた彼の腕をつかみ、引き上げて、「やったなあ」と言うと、今度は別の涙を流し始めました。象徴的な場面ですが、参加したどの子にも同じような成長があったのだと思います。

また、今年は、コースによっては「森の中での読み聞かせ」や「楽器を入れたお楽しみ会」などの新企画にも挑戦して一定の成果を得ましたし、何と言っても「高校生のサブリーダー」が大当たりでした。たまたま本部教室に出入りしていた花まるOBの高校生数名に声かけしたところ、皆積極的に参加してくれたのですが、こちらの想像以上にキラキラと輝くお兄さんお姉さんぶりでした。大学生のリーダーとは明らかに異なる若葉のような美しさで、子どもの可愛さに魅了され、世話をする責任にやりがいを感じてくれたようです。花まるの一つの文化になって継続してくれるといいなあと思っています。

それがヒントになったのですが、現在のものから一段上のプログラムとして、高学年から中・高生を対象にした、サバイバル色の濃い自然教室を企画してみようということで、一泊で山奥にキャンプに行ってきました。米と調味料以外は原則現地調達というルールにしてみたのですが、魚釣り担当の私がボウズで、白飯に醤油をかけて食べるはめになってしまいました。

自分のせいで、おかずがなくなったというこの経験は、貴重でした。釣っているときも必死でしたが、「どうして釣れなかったのか」と真剣に考えをめぐらせたからです。帰ってさっそく渓流釣りの本を購入したのですが、これがとても良い本でした。山や自然を大切にする気持ち、本当に渓流釣りが好きなんだなあという気持ちが伝わり、また何よりヤマメやイワナの気持ちになりきって書かれていることに感心しました。

人や組織を動かしたり働きかけをしようと思ったら、まず第一に「相手の本質を知る」ということが大事ですが、なるほど魚でも同じ、というより言葉の通じない魚だからこそ、季節ごとの生態や居場所や振る舞いの癖を知りぬく必要があると分かりました。敵におびえつつ、上流に口を向けてひたすら餌を待ち続けるヤマメの人生に妙に感動もしました。

湿った流木でも焚き火を上手に作れなければご飯も炊けぬ。魚が釣れなければおかずなし。こういう必然性に追い込まれる経験は、都会の便利で贅沢な暮らしで見えなくなった大切なものを取り戻してくれます。子どもたちにもぜひ経験させたいと思いました。

花まる学習会代表 高濱正伸