「すっごいねえ」第一声はよかったのですが、次の言葉でコケました。「バリチェロって、いい仕事するねえ」なんとすごいと表現したのは、F1レースで味方のシューマッハを年間総合優勝に導く活躍をしたレーサーへのものだったのです。学校でいいことがあって勢い込んで報告したら、ママは好きな番組に夢中で気もそぞろだった、という図で、少年なら思いっきり拗ねるところですが、「全く、人の話を全然聞いてないんだから」と、日頃言われている言葉をぶつけて溜飲を下げ、大笑いしました。
さて、四季の自然スクール秋の陣は、例年になく天候に恵まれました。雲ひとつ無い秋晴れの下、親子で枯葉や流木や石を集めて、穴を掘りかまどを作り火をおこす。空き缶やコッヘルなど各自準備した容器で米を炊き、味噌汁を作り、ジャガイモを焼く。火を上手に起こし早々に炊き上げるお父さんもあれば、拾ったクルミを焼いて食べるクルミブームを起こすお父さんもあり、子供たちは身を切るような山の冷水の流れる水路にもぐりこんで遊びほうける。のどかで豊かなひとときでした。
一日で見事に紅葉してしまう山の季節の移り変わりの早さに感動したこのスクールでも、ハイライトはやはり夜の飲み会でした。私も冒頭のエピソードを話して受けましたが、春の勢いを借りて「恐い妻論」に花が咲きました。「気づいたら主導権握られていたんですよねえ」とぼやく方、帰宅したとき寝静まっていたら「ああ寝ててくれた」とホッとすると告白する方。色々でした。ちなみに恐妻家とそうでない方の人数比は3:2でした。
また、漫画の話でも強烈に盛り上がりました。きっかけは一人のお父さんが「仮面ライダー」の絵なら今でも上手に描けると言って、書いて見せて(その姿は少年そのものでした)賞賛されたことだったのですが、「いやあ、僕うまいんですよ。他にもキャプテンのイガラシとか」との言葉から、「キャプテン」談義になりました。ご存知ない方も多いとは思いますが、ちょうど40代前半の人たちが中高生時代に連載されていた野球漫画です。
実は私自身が、初代キャプテンの谷口たかおが、神社でとうちゃんとひたむきに練習する姿に憧れた、というより心をすっかり奪われた経験があり、この作品があったばかりに、受験に不利と親や知人に反対されても高校で野球部に入った経緯がありました。陰の努力や、絶対にあきらめないで頑張りぬくことが、素晴らしいことなのだと信じ、どんなに辛い練習でも、谷口に比べればまだまだだと自分を追い込んでいったことを憶えています。
まあ、漫画に感化されるまことに単細胞の15歳であったわけですが、同じ経験を共有している二人の同士の言葉に、30年の時が経っても感動はビビッドに蘇り、三人が一つひとつのシーンを克明に記憶していることに驚きました。出版物の影響力の凄さ、漫画のパワーというものを再認識もしました。
あれから私たちは少しは大人になったのかなあ。人として成長したのかなあ。そんなことをふと考え、新幹線からの景色を眺めて帰ってきました。子ども以上に、親父たちが子どもに戻った秋のできごとでした。