用件を話すと、社長と年配の職人さんは、自分の仕事を止めて乗り気になってきました。材料は何がいいか、杉の木は燃えがいいから杉だろう、棒の方はちょっと堅いのがいいんじゃないか、穴の大きさは13.5ミリくらいかな…。私そっちのけで、議論し始めました。そもそも本当にそんなに簡単に火なんて熾るのか、まあとにかく、やってみようよ、とドリルの機械の先端に棒を設置して、杉の板にキューンとこすり始めると、ものの数秒で煙がモクモクと出始めました。「おお!」「すっげー!」3人とも、子どもそのものでした。
そのあとも、実際に子どもたちにやってもらう火熾し器の設計について、ああでもないこうでもないと、作ったり実験してみたりを繰り返して、ようやく一つのスタイルにたどり着きました。創る人は美しい、というのは持論ですが、長年木と付き合って、木材の心を知っている職人さんが、「面取りしなきゃ」とカンナをかける、そのかけ姿の安定感は、格好良いなあと思わせられました。
さて、その火熾しユニットを喜び勇んで持って帰って、他の理科実験を始めているスタッフとさっそく試してみると、見事発火。興奮する若い社員を前に、多分私は得意満面であったと思います。
続けて、いくつかの火の予備実験を行ったのですが、ここで、一つの壁に当たりました。小皿に蝋燭を立て、周りに水を注ぎ、火をつけてコップをかぶせると、火は酸素不足でやがて消え、コップの中の水位が上がるという実験です。学生時代には、漠然とした理解として、中の酸素を消費したから、その分上がると教わりました。ところが、理論的な裏づけをとるために、化学式を書いてみると、酸素が二酸化炭素と水素になって、むしろ気体としてのモル数は、上がる。おかしいな。
さらに、何度も実験してみると、最後に火が消える瞬間にググッと水位が上昇することが分かりました。しばらく考えていたのですが、ひらめきました。酸素2モルを使って、二酸化炭素1モル、水蒸気2モルができるけれども、火が消えて冷却されることで、水蒸気が液化して一気に圧力が下がるのではないか。もう一度実験してみると、確かにその瞬間ガラスの内側の面が曇ることが確認されました。本日二度目の有頂天でした。
子どもたちに、伝えたいのは、まさにこの日の私の心です。あれや、これやと、モノを使って試行錯誤し創作する楽しさ、完成したときの喜び、壁に当たって謎を解こうと考え抜くワクワク感、クリアしたときの「よっしゃ!」という達成感…。
さあ、夏休みです。まずは無事が第一。その上で、感動と驚きと発見に満ちた、多くの実体験でいっぱいの夏となりますように。