高濱コラム 2006年 3月号

やる気を育てることは、とても大切です。社会人として、一人前に働いているか、さらに精力的に輝いて働いているか、というようなことを見たときに、その人が内側に持っている「自己肯定感」や「常に前向きにとらえる感性」や「何にでも意欲的になれる性格」というものの差が、輝きの差になっていると感じます。

4歳から8歳くらいの幼児期に、頭の良さの核心的なものが育つように、この時期は、人として前向きに生きる人になれるかどうか、社会人としての根っこが育つように思います。そして、そのためには、学校・友人などの外の環境(特に運動コンプレックスに関する環境など)もすごく重要ですが、私が見るところ、最重要なのは間違いなく保護者の言葉です。

返却された作文を見ると、短いものである。娘よ、もうちょっとがんばれよ、という気持ちで「○○ちゃんは、こんなに長く書いてるじゃない」と言う。 宿題の作文が遅々として進まない。激励の意味で、「何か他にあるでしょ、もっとよく思い出しなさい」と言う。

90点の答案が返ってきた。もう少しで満点じゃないか、がんばれという気持ちで、「あなた、これいつも出来てるじゃない。何で間違ったの」と言う。 文章題の読み落としで間違ってしまった。しっかり読みきってほしいという願望で、「もうちょっとちゃんと読みなさい、ちゃんと」と言う。

教えていると、飲み込みが悪い。さっき指導して分かったようなことを言ってたのに、また同じ間違いをした。イライラして「また、同じことやって。さっき言ったでしょ」「あんた聞いてんの」「何回言えば分かるの」と言う。

このような言葉は、ありふれた会話ですが、罪深い言葉です。わが子を思う親心から発していながら、結局は、やる気を失うように、失うようにと働きかける結果になっています。

信頼できる脳科学者が、あるところで、こういう意味のことを書いていました。計算を繰り返せば頭がよくなる的な、「脳科学の成果」を謳ったドリルなどがブームであるが、どうなのだろう。脳の断面図で光る部分のある写真など見せられると、もっともらしいが、そのような類のもので、これは間違いないと言えるものを見たことがない。本当に「脳科学の成果」と言いきれることはただ一つ、「脳は、やる気になってやるときには、発達する」ということだけである、と。

十数年の現場での答えも同じです。子どもたちに指導をするときは、全てを「やる気」の中で行わなければなりません。そうでなければ、効果が低下するどころか逆効果です。
すべてをやる気の中で育てる。このことを、保護者の皆様に、共有していただきたいと思います。「今この問題が、できたかどうか」「ちゃんと分かったかどうか」に焦点を当てるところから、不幸が始まるようです。もちろん分かることを目指すのですが、焦点を当てるべきは、「今、この子は、やる気になっているかどうか」です。

この数日の言葉を思い出してください。それは、子どものやる気を伸ばす言葉だったでしょうか。

花まる学習会代表 高濱正伸