『逆境こそ最高の機会』2011年9月
一カ月以上もサマースクールをやっていると、いろいろなことがあります。せっかくの3泊4日間の天候が、すべて雨ということがありました。4日目の朝、どこか曇った表情を見せる子どももいたので、私は全員に向かってこう言いました。
「4日間全部雨だったね。残念な気持ちを持ってる人もいるかもしれないけど、こういうときって大事なんだよ。みんなにたくましい人になって欲しいから言うんだけど、ダメな大人の典型はね、愚痴を言ったり他人をうらやんだりする人なんだ。『あーあ、雨だよ、つまんないなあ』とか『いいなあ、晴れの回だった人たちは』とかね。だけど、みんなにはそういう人になって欲しくない。だって、天気って選べないしどうしようもない条件なんだから。大事なのは、天気に限らず『与えられた条件でベストを尽くす』ってことだし、『与えられた状況を楽しみきる』ってことだよ。実際みんなは川でも遊べたし楽しめたよね。それはみんなの心が素晴らしかったからなんだ。これからも、どんな状況でも満喫して楽しめる人になってください」と。
子どもたちの目がキラリと光るのを感じました。作文にも、私のその訓話のことがたくさん書いてありました。「まさに自分は『雨だから嫌だな』って言っていたけれど、間違いだとわかりました。良かったです」というように、まっすぐに受け止めてくれたことが伝わってきました。
順境=晴天で予定がつつがなく進行するときも、もちろん楽しんでほしいのですが、教育という面で言うと、逆境こそ最高の機会です。思い通りにならないとき、うまくいかないとき、つらい気持ちになったときこそ、チャンスです。なぜなら、目標はあくまで成長後、社会人となってから、さまざまな外的な条件の厳しさや、いかんともしがたいきつい状況、不運としか言えない境遇に追い込まれたときに、「乗り越えられる人」に育てることこそが、教育の大きな目標であり、それは乗り越え経験によってこそ培われるからです。
天候などはもっともシンプルです。乗り越えるどころかちょっと意識を変えるだけでいいのです。選べない条件ならば楽しむしかない。だけど、そんなことに「うまくいかない理由づけ」を探す大人も現実にはたくさんいます。夏の夕立をずぶぬれになって走ったあとの、こみ上げる笑いを知っている人ならば、傘のない帰り道に「もういいや!」とばかり、むしろ水たまりにビッチャンビッチャン靴を突っ込んで歩いた経験のある人ならば、「雨だからつまらない」とは決して考えないでしょう。子どもたちには雨だって楽しめる人に育ってほしいと心から思います。
もちろん努力して改善できる余地が見えるときや、自分がサボって失敗したとわかっているときなどは、反省したり、良くする道を探したりするべきですが、人生には選択できないこと、受け入れるしかないことはたくさんあります。先祖や両親、遺伝子的な面での形質(肌の色・背の高さ etc.)、生来の障害や病気…。個人ではあらがいようのない社会的なマスとしての動き=経済なども、短期的には受け入れるしかない状況の一つでしょう。
そういうことに愚痴やねたみや「できない理由」を言うのでなく、その中でベストを尽くすという姿勢はとても大切ですし、与えられたものは与えられたものとして受け止め楽しみきることは、さらに大事だと思います。はた目には恵まれないとか気の毒と言われてもおかしくないのに、本人は楽しみきって幸せそうだ。そういう先輩を見ると、子どもたちは「早く大人になりたい!」と思えるのではないでしょうか。
花まる学習会代表 高濱正伸