西郡コラム 『子どもたちへの講演』

『子どもたちへの講演』2013年9月

今日お話しすることは、学校の勉強、たとえば算数、国語、社会、理科といった教科の学習の仕方ではありません。もっと、その学習の基本、土台になるものです。

まずは、集中力。集中力って聞いたことがありますか。皆さんは、何かに夢中になったことがありますか。何かに夢中になるとき、皆さんは集中していることになります。そのことだけ、考えたり、作業をする。ただ、出来上がりを思い描いてそこに向かっている。他は気になりません。集中することは、皆さんもどこかでやったことがあるのです。難しい言葉も簡単に置きかえ自分の経験から探っていけば、見つかります。言葉は知らなくてもやっていることは多いのです。

では、ちょっと実験をやってみましょう。これから数字を言います、覚えてください。いいですか。(最初は、数字3個から始め次第に増やし、9個の数字を読み上げる)すごいですね、何人かのお友達は9個の数字を覚えられました。ちょっと振り返ってみましょう。数字をこれから言いますから覚えてください、と私が言いました。そこから皆さんは聞き逃さないように真剣に聞いています。数字と数字の間に他のことが頭をよぎると、前の数字を忘れます。そして、聞きながら頭の中で数字を並べる、「聞く」と「イメージ」を同時にやっています。途中で何かを挟むからわからなくなる。学校の授業でも、数字を真剣に聞いたようによく聞いていればわかることがたくさんあります。

さて、9個の数字を覚えられたお友達はすごいですね。あの子、頭がいいんだね。僕なんか、私なんか全然覚えられない、と思った人はいませんか。今度は、手元の紙に読み上げる数字を書いてみてください。(9個の数字を読み上げる)どうですか。簡単ですね。読み上げる数字のメモをとれば、簡単に私が読み上げた数字を再現できますよね。書くということはこういうことです。覚えられなければ書く。算数の式、筆算なんか頭の中でやろうとする人が多いですね。無駄ですね、書いて、目で見る、これだけでずいぶん楽になります。先生の話、ずーっと聞いていても忘れますよね。書いていれば、後でそれを見れば思い出せます。だからノートを取るのです。自分のために。

数字を5個しか覚えられない、7個しか覚えられない、人それぞれです。能力はそれぞれ違っています。あいつは頭がいい、で諦めていませんか。学校の学習ならそれでいいかもしれませんが、皆さんが将来大人になって、どうせ出来ない、なんて諦めても誰も助けてくれません。自分でそれを補う方法を自分で作らなければ生きていけないわけです。嘆いても何も生まれません。しかし、現代は補う道具はたくさんあります。あなた次第です。他人と比べる前に自分はどうすればできるかを考えることが学習の基本です。

漢字の学習に応用してみましょう。先生、漢字を何回書けばいいのですかとこういう質問をする人がいます。そういう人には自分で決めなさいと答えます。自分の記憶力、理解力は自分でしかわからない。自分の頭の出来は自分で知ることです。それしかありませんから。

次にお話したいことは、向上心です。聞いたことがありますか。難しい言葉ですね。簡単にいえば、よりよくすることです。しかも、皆さんは今ここで、この向上心を持ったのです。読み上げる数字が覚えられない、だからメモをとった。これが向上心です。もっとこうしたらいいのではないか、面白くなるのではないか、なにか違うな、もう一度やり直そう、こういったことをいつも持っておくこと。

先日の授業でこんなことがありました。文章読解の問題で、この文章はいつの出来事ですかという問いに、文章には「九月のある晴れた日曜日」と書いてあるから、これを答えにしました。すると、「九月でもいいですか」「ある晴れた日曜日でもいいですか」という人たちがいました。その人たちには、「○がほしいの。○はどうでもいいよ、あなたがもっとこうした方がいい答えになると思ったら、赤ペンで書き込むこと。×で赤だらけになった方があなたの頭は鍛えられています」と言いました。よりよい答え、考えにすること。算数でも、別のいい解き方はないだろうかと考える人は算数が伸びます。解き方を習いその方法で機械的にただ解く、これ、面白くないでしょう。そこで考えるから面白い。

学校の勉強に限らず、例えば料理もそうですよね。食べる人がおいしいと言ってくれるように工夫するわけです。大袈裟かも知れませんが、人類が進歩したのももっとこうしたらいいのではないかと考え、つくり続ける歴史があるからです。すべてにおいてよりよくしようと思うこと、そして行うこと、向上心を持つこととはこういうことです。

もっとよりよくしよう、待っているだけでは向上心は持てません。進んで自分から何かをしようと思わなければいけない、これが意欲です。面白くしよう、は意欲です。そして、それを行動に移すことです。今のうちです、失敗が許されるのは。どうしよう出来なかったら、だめかもしれない、自信がない、何を恐れているのです。誰かから叱られますか。何でもやっていいのです、試していいのです。あれこれやってみること、これを試行錯誤といいます。皆さんはこれから試行錯誤の繰り返しです。失敗を恐れないで、面白く試してみてください。それがあなたを作っていきます。