『子どもたちへの講演 8』 2014年5月
書くということは、自分自身への問いかけ,自分自身から搾り出すしかない、と前回お話しました。だから、作文は自分史です。ちょっと立ち止まって自分とその生活(環境)をしっかり見つめ、考えてみる、それを言葉にして文を作る。書くことによって考える力を深めます。作文は思考力、考える力を養います。では、どういうふうに頭を使っているのか考えてみましょう。
自分が感じたもの、考えたものがなくては書けません。ものごとがどうなっているのか、その状態や変化を注意深く見ます。たとえば、朝顔の成長の観察といえば、わかりやすいでしょう。朝顔の種から芽が出て、葉がでて、蔓が伸び、花が咲く。どういう状態になっているのか、どう変化しているのかを注意深く見ます。これを観察といいます。以前にも話した五感をしっかり使って観察します。そこには、まだ知らなかったこと、わからなかったことを見いだします。これは発見です。いろんなことを経験することとで、気づきがあります、発見があります。そうか、なるほど、と思うから書けるのです。これは、あなたの心が動かされた、感動です。以前、好奇心が大切だという話をしました。これって何だろう、どうなっているのだろう、好奇心がなければ気付かない、感じない、発見できないのです。
朝顔の観察みたいに、目に見えるものだけではありません。目に見えないものを観察するにはどうするか。以前に話した、心の中に思い描く、想像力を使うのです。想像力は急には身に付きません。いいものをたくさん読んでください、見てください、聞いてください、触ってください、心を揺さぶられてください、感動してください、以前に、こういいました。朝顔の成長の観察のように目に見えるものだけではなく、目に見えないものも想像してみるのです。「楽しかった、嬉しかった」では、なぜ楽しかったのか、嬉しかったのか、心を観察、発見、想像することで書く材料ができます。書く材料は、あなた自身の感性で捉えたものしかないのです。
ものごとは一つではありません。単純でもありません。複雑に入り組んでいます。ものごとだけではなく、人間関係も、自分の気持ちも一つではない、複雑で入り組んでいます。だから、面白いのです。複雑に入り組んでいるものやことを考えるには、一つ一つわけて考えみる必要があります。たとえば、算数の場合分けの問題を思い出して下さい。何通りあるか、といった問題です。一つ一つ場合わけをして考えるでしょう。この考え方です。算数の問題を解くのは、ものの考え方を訓練しているのです。複雑にいり組んだもの、こと、人間関係、気持ちを、一つ一つ分けて考えてみるのです。そのひとつの方法が5w1hです。いつ、どこで、なにが、だれ(なに)、どのようにして起こったか。そして、なぜ、を考えて書いてみる、こうすると書くことで考えが整理できて、深まってきます。なぜ、そうなったのか、そうなるにはには理由がある。そうなった原因や根拠がある、それを捜しだし言葉にすることで書けるのです。
書くときには順序を考えます。時間ならば、時間のたつ順番で書く。移動、変化した順番で書く。こうやって順序だてて考えることを論理的に書くといいます。難しい言葉ですが、論理とは筋道を立てて考える方法です。やみくもに書くのではなく、書く順番をちょっと考えてみてください。より書けるようになります。簡単な練習として、皆さんの家から学校まで、あるいは最寄の駅まで、この道順を書いてみる。順序だてて書かないと、道順はわかりません。順序立てて考えてみることも書くときに使う大切な考え方です。
「きっと、明日は雨だろう」「あの人は、怒っているだろう」こうではなかろうか、といった考え方を、推測といいます。推測とは文字通りおしはかることです。さらに、「もし」「仮に」といった考えを付け加える、この考えを仮説といいます。難しく考えないで、もし、○○ならば、と考えてみればいいのです。楽しいですよ。この考え方はとても大切な考え方です。ニュースに出るような実験ももともとは、あるアイデアが生まれ、もしそうならばといことで、それを証明するために実験をするわけです。いろんな商品も、もしこんなものがあったら便利だ、もしこうなったらもっと使いやすい、こういった「もし」仮説で考え始めるのです。
そして、書くには判断しなければいけない。だれが、もちろん自分で引き受けます。書くのは自分、自分で判断するしかないのです。判断は、正しい、正しくない、いい、わるいを自分で決めること。迷うこともありますが、先に進むには判断しなくては進めません。間違ってもいいのです。まずは自分で判断してさらすこと。そして、違っていれば、また考え直せばいい。学習するということは間違えることを前提にしています。間違えるから学習です。自分で判断して、多いに書き直してください。試行錯誤、失敗を繰り返し、いいものをさがす。向上心があれば、まずは、自分で判断することです。それが学習です。
自分の気持ちを言葉にするのは難しい、それを文にするのはもっと面倒だ、と思っていませんか。確かに、書くことは、面倒なことです。よくわかります。しかし、その面倒な、書くという学習をするから大切な思考力が養われるのです。面倒を通り越すと、いろんな考え方をするから書くことは楽しい、と思えてきます。私自身も書くことは、好きではありません。しかし、時々、書くことで自分はこんなことを考えていたのだと発見できます。文を作る喜び、何かを生み出す喜びは、何物にもかえがたい、この瞬間が至福です。
西郡学習道場代表 西郡文啓