松島コラム 『2050年問題』

『2050年問題』 2014年5月

「2050年に君たちは何をしているのだろうか。世の中はどうなっているのだろうか。」
 先日、ある高校の生徒向け講演会の冒頭で、こんな質問をぶつけてみた。「2050年には、高齢者の割合が約40%に達し、日本の人口は9500万人、年齢中位数は53歳になる。世界の中でGDPは8位に落ち込み、中国の8分の1となってアジアの一小国になる可能性がある。」と資料を見せながら解説した。もちろん予測にしか過ぎないが、今の出生率のままなら世界でも類を見ない急激な人口減少が進むことは事実である。
 この講演会の演題は「社会で活躍する人になるための準備と心構え~10代、20代の生き方が勝負~」というもの。少し考える時間をとってから無作為に生徒を指名して意見を聞こうとした。ところが、会場のスタッフにマイクを向けられた生徒はずっと沈黙したままだった。「家と学校」という狭い世界で生活している子どもたちにとって、あまり考えたこともないテーマだったかもしれない。しかし、数年後には親元を離れ社会に出て行くことになる。36年後の未来も今とつながっている。この機会に自分たちの未来について少しでも考えてもらうために、あえて悲観的なデータを提示した。未来は必ず変えることができる。輝く未来にするために、「今から始めよう!」というメッセージを送ることがこの講演の目的だった。
 世の中がどのように変わろうとも、必要なのは試練や困難を乗り越える力である。大切なのは失敗や挫折を前向きにとらえる「プラス思考」だ。講演ではプラス思考型の人間になるための具体的な方法を事例やロールプレイングを交えながら伝えた。今悩んでいることは必ず乗り越えられる。しかしすぐに別の悩みが生まれてくる。「生きる」ということはその繰り返しである。だから、過去を引きずらずに前に向かおうとする発想力と行動力で人生は変わってくる。「若いうちに苦労は買っておけ。」と言われるのは、「失敗しても許される若いうちに心と体を鍛えておけ。」という先人の教えである。そんな話をした。
 若者に本気で何かを伝えたいときは、こちらもさらけ出す覚悟が必要だ。「年齢が上」というだけで大きな壁がある。講演者と高校生という関係ならなおさらである。しかし、みな同じ人間なのだ。同じ年齢のころに抱える悩みはそうは変わらない。失敗や挫折も同じようにある。だからこういうときは、悲惨な失敗をどう乗り越えたのかという話が一番受ける。ほかにも「勉強、恋愛、大人、社会、生きる」というテーマを通じて、大人になってから気づく大切なことを彼らの目線に合わせて楽しく伝えていった。
 最後に生徒代表からお礼の言葉をもらった。「勉強になりました。」ではなく、「感動しました。」という言葉がうれしかった。聞き手から表面的にわかったような返答をもらうようでは伝える側の負けである。FCが掲げる「正しい学習観」にもあるように、「わかったつもり、わかったふり」では次につながらない。講演内容の中で心に響くようなものが一つでもあったのなら本望である。
 広義での教育の役割とは、次の世代に、過去に学んだ知識や経験を伝え、未来を魅力的に語って夢を与えることだと思っている。100人の教師がいれば、100の過去があり、100の未来への思いがあるだろう。受け取る側は、その中から自分で考え、気づき、決めていけばいい。
 「親と一緒にいられる時間は短い。今は一年365日顔を合わせているのが当たり前かもしれない。しかし、社会人になって家を出た後は、生きているうちに親と会える日数は合計しても一年に満たなくなる。だから聞きたいことがあったら、今のうちに聞いておいたほうがいい。」と彼らに伝えた。
 親から子にしか伝えられないことがあると思う。もっと親子の語らいの時間を大切にしたい。