『ありがとう』2015年4月
3月1日、お茶の水の中央大学駿河台記念館で、小6向けの卒業記念講演を行いました。
大人の入り口に立つ彼らには、できるだけ多くの大人たちが、本音を伝えるべきであるという考えに基づいて、長年開催してきました。イジメ・異性・仕事・自立・夫婦・コンプレックス・友だち・身体のこと…。真実や正解を言おうとしなくていい。数十年早く生まれ、より多くの経験をしてきた先輩として信念をぶつけるという心構えが大切だと考えています。何故ならば「きれいごと」や「あるべき論」だけを聞いて信じてしまった人は、社会の荒波に出たときに、非常に脆いからです。そして、今の時代、公式の立場にある先生方や校長・教育長・議員さんたちは、クレーマーやモンスターの攻撃で、ネット上で炎上したりメディアにつるしあげられるたりするのが怖くて、本当の気持ちはなかなか口にできないからです。
今の6年生は大学入試が大改革される学年です。そしてそれが何故行われるかというと、軋む音が聞こえるくらいの勢いで歴史が動いていて、今までの入試のままでは駄目であることが自明だからです。コンピュータとWebの発達による「革命」は、人類が味わったことがないくらいの大きな変化です。「地球上でもっとも早く電子政府が実現した国エストニアでは、税金にしろ年金にしろすべてをコンピュータがやってくれるようになったおかげで、税理士と公認会計士という職業が無くなった」という記事が、昨秋駆け巡りました。実際には、急に失業したというよりは、高度な知識を活かして企業内で活躍するなど、別の仕事についたのでしょう。しかし、「子どもたちが大人になる頃には、今ある職業の3分の2がなくなっているだろう」という、巷間よく引用されている言説の、具体的で衝撃的な事例を示した形になりました。
SNSがジャスミン革命・アラブの春の土壌になり、テロリストが動画を発信する形で世界にショックを与えるなど、今までにない大変化が現実に起こっています。ISとアノニマスの対決に至っては、国と国が陣地争いをするという、20世紀以前の戦争観では全く理解できない、いわば「いまだ言葉が与えられていない諍いの形態」が、具体化しているわけです。
そんな中で子育ての方針はどうあるべきか。悩ましいようですが、方向性は実は決まっています。知識の記憶や再生、計算などは、全てスマホやPCなど機械でできる。残るのは、「人間にしかできない仕事」だということです。すなわち、周りの人との生身のコミュニケーションに強くなり、判断力と魅力を備えたリーダーシップを発揮すること、知識を編集して新しい意味や概念を創造すること、ディベートやプレゼンに強くなること、イノベーション・発明ができること、などです。
講演は、このような世界の変化の話から始め、たくましく魅力的に生きるために私が大事だと思っていることを、30項目ほど列挙したレジュメに従って、進めました。今年も、一年で一番純粋でまっすぐな瞳が見つめてくる時間になりました。紙面が真っ黒になるくらいメモを取る子、大笑いする子、涙する子。彼らの真剣さに、こちらもどんどん熱くなっていきました。
感想です。
・男子「大人の本音、スゴかったです。『親をいたわれ』の話はとても心にひびきました。親にムカつく時がよくあるので、『こう思えばいいんだ』と思うことができたのでスッキリすることができました」
・女子「男子は汚いことでゲハゲハ笑ったり、普通に考えれば危険だとわかるものを進んでやろうとしたりしていて、意味不明だと思っていたけれど、今回高濱先生の話を聞いて、理解できました。」
・女子「私は今、部活を陸上にするかテニスにするか、とても迷っていました。その理由は、陸上部はとても強くて入りたいけど、先生がすごくきびしいです。練習量もハンパないし、休みがほとんどありません。それに比べてテニス部は、それほどきびしくないし楽しそうなので、入りたいと思っていました。でも、今日の高濱先生の話を聞いて、すぐに、陸上部にするときめました。先生は、きつい方をとれ!と言っていたので、陸上部に入りたいと思いました。」
・男子「お母さんの水素爆弾級のイライラの対処法がわかりました!」
・女子「私は6年生の時、引っ越してくる前は十分に小学校が楽しかったのですが、なかなか実感できずにいて、何か小さいことで「合わない」と言い続けてきました。幻想だけをずっと追いかけて、今を受け入れようとはしていませんでした。『となりの芝生は青い』とは、今の私でした」
・女子「感動しました!とにかく心にささり、何も言えなくなりました」
・女子「今まで自分でも気づかないうちに、弱い自分から逃げ出していたのかなと思いました。だからこれからは、自分だけの本音を日記にぶつけて、本当の「自分」を見つけたいと思いました」
・女子「私も4・5年生の時にいじめにあいました。けど今回の講演を聞いて、やっぱり自分も『もじもじ』してたからなんだと原因を見つけることができました」
・男子「人生甘くないんだよ!の一言で、覚悟が決まりました」
・女子「中学校はどんなところなのか不安がいっぱいでした。でもこの講演を聞いてから、気持ちが楽になった気がします。これから恋もするし人間関係もむずかしくなるし、勉強もレベルアップすると思うけど、ここで教えていただいたことを忘れないで、自分の意思で動こうと思います。本当に心からのありがとうを伝えます。ありがとうございました!もっと書きたいけど時間がありません。一言で言うと、大好きです。がんばります」
ありがとうはこちらのセリフです。思いのこもったこれら350枚の感想文は、私の一生の宝物になるでしょう。このような濃密な時間を共有できた彼らのことは、何があっても応援し続けなければなという決意を胸に、会場をあとにしました。
花まる学習会代表 高濱正伸