西郡コラム 『期待するも、虚像を抱かない』

『期待するも、虚像を抱かない』 2015年7月

公立小学校・1年生担任が花まる教材「サボテン」はいい、と改めて評価してくれた。やりはじめはどうなることかと思ったが、集中して取り組む子どもたちが徐々に増えてきた。もう少しやりたいと言い出す子も出てきた。でも、そこであえてやらないのがいいですよね。毎日やるから、明日やりたいという意欲が高まる。「サボテン」の力を再認識しました。
 一人を注意すれば、向こうではしゃべりだす。するなといえばする。伝えたこととは違う行動をとる。担任は一つ一つ丁寧に粘り強く褒めて叱って指導を繰り返し、2か月かかって漸く集団行動がとれる、まとまりのあるクラスにしてきた。1年生問題、大なり小なりどこにでもあるが、そこをどうするかは、学校、担任の力量の問題。この担任が花まるの「サボテン」を率直に評価する。いいものはいい、使える、と。私たちが公立学校に入ることで、本来持つ学校の教育力をさらに向上させる。今までにない公立小学校ができてくる。
 「サボテン」では他人と比べない、昨日の自分より良くなる、ということが主題。向上心の何たるかも学ぶ。小さなことの日々の積み重ね。6年生で分数かける整数の問題ができない子がいる。私も教室に入り、その子に分子と整数のかけ算だけを指示、そこはできる。すると次の日もそこをやろうとする。正解ではないが、昨日より良くなっているから、花丸をつけてあげる。つぎに、分数と整数を同じ数で2で、3で、5で割る。割れれば商を書く。そこだけを毎日やる。次に仮分数から帯分数へ、と。出来ないことから出来るようになったことに花丸。隣の人と比べなくてもいい、分子と整数のかけ算しか出来なくてもそこから始めるしかない。そして出来たことが次の意欲を生む。
 「サボテン」の、たった3分という時間の中でも彼と私の信頼関係が出来てくる。自分はどうせ出来ない、向き合えないという学習の悪循環を断ち切る。出来ることから伸ばす。
 比べないこと。6年生ともなると、子どもは個々の差を顕著に意識して読み取り、不必要な劣等感が出来る。
 学習道場でこんな悩みを打ち明けてくれた母親がいた。授業参観に行った。鋏を使う作業をしていたが、うちの子はあまりにも不器用。それを見た、隣り合わせの母親たちがクスッと笑う。この失笑に母親は理性を失い、ただただ屈辱感。鋏が上手く使えないことだけでなく、日頃の行動すべてが私の思うとおりにやってくれない。なんであんなことも出来ないの、と分かっているが怒ってしまう。子どもは当然反発する。負のスパイラルは、この子が嫌い、私の子ではない、までエスカレートする。クールダウンするための考え方は一つ、人と比べても仕方がない、だ。
 親は子どもに期待する。子どももそれに応えようとする。しかし、子どもの実像を離れて、親が理想とする虚像をつくりあげ、それと現実の子どもを比べると不幸、不安定な親子関係ができあがる。期待するも、虚像を抱かない。

西郡学習道場代表 西郡文啓