『対話』2016年3月
「対話」とは、なんでしょうか。人と人の間に存在するもの、と考えることが多いかもしれません。
実際には、内なる自分と対話することの方が多いのが、人間という生き物です。
自らの興味や関心に基づいてものごとに関わろうとする、その延長線上に遊びも、学びもある。常に能動的に、学びながら自分の世界を広げようとしている子どもたちにとって、創作活動(遊びや思考実験)は実は、物を介した「内なる自分との対話」です。
人が自分で主体的に生きていると感じるためには、他者からの承認の上に、自分が判断している、自分が決めている、という実感を持つことです。大人にとっても、しあわせの軸はそこにあるはずです。幼児期には特に、熱中すると時間を忘れて没頭する、その感覚を持てているかどうかを、大切にしてあげてください。子どもたち自身の中に、学びたいことは存在しています。それに向かって、自分で内容をデザインできる、それが創作活動/遊び=主体的な学びなのです。
年中コースでは、同じテーマに沿って制作、実験する時間があります。新しい知識や発見や驚きを、感動と共に仲間と分かち合い、それぞれが「思考と想像の体験」に没頭します。そのとき、作品を出来不出来と評価することはありません。なぜなら「対話」する過程そのものに、重きを置いているからです。自分なりの感じ方考え方などを築き、他者との違いを、豊かさと感じながら生きられるようになる。そのことが、ひとりひとりのアイデンティティを形作っていくのです。
子どもたちは、制作物を必ずお家に持って帰ろうとしますが、それは自分の経験から生み出された「もうひとつの私」としての作品であり、それを保護者に見てもらいたい、と願うからなのでしょう。
「― 略 ―りん先生のワークショップでも、1度体験させていただくと、娘はいつもしばらくそれにハマっているのですが、テレビで観た手芸などに、その後、熱中することはありません。最近そのことにふと気付き、多分彼女は、手芸や工作の技術にハマっているのではなく、それと共に、教えてくれたその人自身から放たれた何かにハマっているに違いないと解釈するようになりました。人から人へ直に伝えることって、特に子どもにとっては、大人が思っている以上に何か重大な意味があるのでは?と最近ちょっと感じています。」
あるお母さんからのこのメッセージを読んだとき、ハッとしました。この先どんなに世界が変わっても、探求する子どものそばに、その子がいま何に心を動かしているのかと対話し、共感し続ける教育者の存在が必要とされることは、きっと変わらないことなのではないだろうかと感じたからです
レロ由実