Rinコラム 『はじめての年賀状』

『はじめての年賀状』2017年1月

年長クラスを担当していると、字が書けるようになった子どもたちから必ず「おてがみ」をもらいます。「ありがとう」と「だいすき」がつまった紙の贈り物は、それだけで唯一無二の「作品」です。ああなるほど、お手紙って、誰でも一生に何度か作る「作品」なのだな、と気がついたのです。
 手のぬくもりが残るもの、その手から放たれた何かが宿る作品やお手紙、それに手作りのご飯もきっと、目に見える何か以上のものを、受け取る相手に伝えるのでしょう。

はじめての年賀状を描いた思い出は今でも強烈に残っています。「その中にひらがなを書くんやで」と言いながら、母が風船の形の○を真っ白な年賀状に書いています。「あけましておめでとう、が書けたら、風船に色を塗ってもいいんやで」。ものすごく注意深く、一文字一文字を一生懸命にしたためました。大好きだった年長の担任の先生に宛てて。
 ただの小さな白い紙は、優しい色合いの風船たちが並ぶ作品に仕上がっていきました。○の中にひらがなを書かせるアイデアは幼児にはとても上手な渡し方で、母にあっぱれです。思えば生涯で、あれほど思いを込めて書いたお手紙は、あのときの風船の年賀状がはじめてだったのです。
 2年生になり、家族にお手紙を書く授業がありました。住所と宛先の書き方を習い、間違いがないように息を止めて、母の名前を初めて漢字で書きます。何度も「尚美」の漢字を見直し、「よしこれで大丈夫」と先生に提出。楽しみに母からの喜びの反応を待っていました。「うれしかったわぁ、ありがとう」の言葉の後、母は「でも由実、尚美の字がおしかったなあ」「?!」あれだけ何度も見直して、張り切って出したのに、私が書いた字は「向美」だったのです。「むかいみ、になってる~!?」と妹と母と三人で大笑い(関西人は、失敗は基本笑いのネタです)。でも幼い私には、その失敗がものすごく悔しかった。だからこそ鮮明に、記憶の引き出しに残された、私の手紙の思い出です。

先日、Atelier for KIDsで、「旅をするペットボトル」を制作しました。受け取る相手をどんなふうに驚かそうかと、子どもたちが工夫を凝らした作品が、幾人もの郵便屋さんの手を経て届くということを、喜びと共に実感してもらえたはずです。手で作られたお手紙には、人をしあわせにする力があるということを。

みなさんの年賀状の思い出は、どんなものですか?良い年末年始をお迎えくださいね。
 
RELLO 由実(Rin)