『美意識と型破りの精神』2017年6月
紙をハサミで切るのに興味を覚えはじめた頃は、なによりも自分で道具を使うことがうれしく、だんだん指の力がついてくると、厚い紙に力を入れて切るのが楽しくなります。切るのがただただ楽しくて、長い時間夢中になって切る子もいるでしょう。そうやって切ることそのものを十全に遊びこんだ経験のある子は、絵本を十分楽しめるようになった頃には、模様や線に合わせて切るのが楽しくなります。目を使い、手と指を使い、頭を使い、全身全霊をつかってハサミをつかいます。ハサミではなく紙の方を動かすとうまく切れるのだということにも気がつき始めるでしょう。切り紙遊びは子どもの発達とともにある、素晴らしい課題と言えます。
江戸時代。当時は着物や手ぬぐいなどの日常品、のれんや看板、生活のあらゆる場面で「紋」があしらわれていました。そのデザインは自由自在に工夫され、ユーモアや機知に富んだ美しいかたちの宝庫。花や草、月や星、雲や雷などのデザインからは、先祖たちの自然観がうかがえます。センスの良いデザインの紋は「粋である」と言われて評価され、アイコンとして生活の中に溶け込んだ、ひとつの「美のカタチ」でした。さらに子どもの成長、家族の平和への願いが、豊かな感性で創り上げられた「願いのカタチ」でもありました。そんな「紋」を自分でつくってみたい。型紙にそって好きな色の折紙を切り抜くことで、誰もが楽しめる。そうやってできた「紋きり遊び」。年長コースでは数回のシリーズとして様々な文様を楽しめるように子どもたちに伝えます。見た通りにできるか、ということも一つの課題として提示しますが、それ以上に、自分なりに試行錯誤して色々な文様を創り出してみたいという気持ちを大切に指導します。型があるから「型破り」ができるということ。それも日本の文化のありようでしょう。
昨今のマニュアルなどは、至れりつくせりすぎて、読み手が工夫する「余地」がなく、情報がありすぎてお腹いっぱい。そこから工夫してはみ出していこうとする気持ち、もっと調べてみたいと思わせるしかけが失われつつある気がします。花まる年中年長コースで扱う「折って切って開く」シリーズの隠れた創作テーマは、日本人としての「美意識と型破りの精神」なのです。
井岡 由実(Rin)