『夏休みを成長の機会に』 2017年8・9月
静岡県吉田町が来年度から小中学校の夏休みを最短で10日にする方針を決めたことが話題になりました。授業日数を増やすことで、6時限の時間割を4、5時限に短縮。その分授業以外の業務に早めに取り掛かることができ、教員の負担を減らせる。また、授業準備の時間を確保できるようになるため、授業の質も上がり、子どもの学力向上につながるという話です。主たる目的は教員の時間外労働の削減です。
また政府は、夏休みなどの長期の休みの一部を別の時期に分散させる「キッズウィーク」制度を2018年度導入を目指して検討しています。これは有給休暇取得をしやすくすることが狙いで、小中学校は市区町村、高校は都道府県単位で時期や日数などを決められるようにするとのことです。
もしこうした制度が始まるとすれば、受験生を持つ保護者にとっては、天王山とも言われる夏休みに塾に行ける日が減ってしまうのではないかと心配になります。現行と同じ時間数の夏期講習を行うとすれば、学校が終わったあと、毎日夕食を持参して塾に通う必要が出てきます。いつも以上に体力を使う時期ですから、それだけのスケジュールをこなすのはなかなか大変なことです。
また可能性は低いとは思いますが、市区町村の裁量で決められるということから、A区の夏休みは10日間、少し離れたB区は30日間というような違いが出てきた場合、越境通学者が増える可能性も考えられます。塾側としても自治体によって夏休みの期間が異なると、運営上の問題が出てきます。実際に数年前から2学期の開始時期が8月下旬の学校と9月1日の学校が出てきたために、FCでも7月下旬からの夏期講習の時間割を組み替えたという経緯があります。
こうした前例のない改革は、その対象となる人たちの置かれている事情も異なることから、賛否両論、いろいろな意見が出てきます。今回の吉田町の決定については、「子どもがかわいそう」「大人の都合だ」など、世間の反応はどちらかという否定的な意見が多かったようです。ただ、制度導入は決まったことですから、子どもにとっても先生にとってもよい方向に進んでほしいと願っています。
さて、スクールFCや西郡学習道場では、いよいよ夏期講習が始まります。夏休みは通常の3、4倍の学習ができる期間です。その中でも「勉強合宿」では、1日平均10時間勉強づけという、ほとんどの子どもが経験したことのない中身の濃い5日間を過ごします。「そんなに長い時間勉強なんてできないかもしれない」という不安をもって臨む子もいます。保護者の方の中にも「うちの子、本当に最後までがんばれるかしら」という心配をされる方もいらっしゃいます。
以前5年生を勉強合宿に連れていったときのことです。合宿所に到着したその日の夜は、私はあまり眠れずに明け方までうとうとしていました。5時ごろだったと思います。見回りの担当者から、「子どもたちがいません」という知らせに跳び起きました。ある部屋の子どもたちが全員いなくなっていたのです。数名で手分けをして外に探しに行こうとしていたところに、その子どもたちは走って合宿所に戻ってきました。彼らの手にはカブトムシやクワガタ。彼らは早起きして虫とりに行っていたのです。「ここには遊びに来ているんじゃない。勉強にしに来ているんだ」と一喝しました。しかし、それ以上は言いませんでした。実はこの事件には布石がありました。初日に合宿所の管理者の方から施設紹介をしてもらった際に、「この辺はカブトムシやクワガタがたくさんとれるんだ」という子どもからしてみれば心躍るような話があったのです。それを聞いた彼らは、「みんなが起きる前に虫とりに行こう」という計画をひそかに立てていたのです。よく考えれば、子どもらしくて自然な行動だったかもしれません。まだ5年生のうちは勉強と遊びの間の中で揺れる時期でもあります。ですからルールを破ったこと以外は大目に見たのです。毎年のことですが勉強合宿に来る子どもたちの心の中にはいろいろな不安や葛藤があります。意識の甘さもあります。しかし、たった5日間でも日を追うごとにそうしたことが自信や決意に変わり、行動や発言が変わっていくのです。親元を離れての経験は本当に子どもたちを成長させます。今年もそんな成長の瞬間に立ち会えることを楽しみにしています。
勉強に遊びにたっぷり使える夏休み。受験生はこの夏のがんばりが秋以降の結果につながります。徹底的に自学室を活用してください。受験はまだ先という方は、ぜひこの夏しかできないような体験をしてください。保護者の皆様、引き続き子どもたちのサポートをよろしくお願いいたします。