『言葉とは―丸暗記の効用』2012年10月
言葉は、心や人格を相手に伝える力を持っています。心優しい人が優しい言葉を使い、乱暴者だから乱暴な言葉遣いになるのではなく、優しい言葉を使っていると優しい人になり、乱暴な言葉を使っていると乱暴者になる。自分の心や行動は、自分で使うことばによって支配されています。「はじめに言葉ありき」なのです。ですから、私たち大人が子どもたちに接するとき、いちばん大切にすべきなのは「言葉遣い」なのです。今回は、言葉や知識をどう会得していくか、その方法論―暗記の力についてお話します。
暗記する力は、記憶力という能力によるものですから、幼児期のうちに育てておきたい力のひとつです。記憶力を育てるには、「覚えようとして覚える」以外に方法はありません。そして幼児期は、耳から入るものを覚えるのが得意で、大声で発声することが大好きな時期。花まるでは、四字熟語や俳句、百人一首をみんなで大きな声で暗唱し、それが子どもたちにとって、覚えるという訓練になっています。
暗記のコツは、短期間に密度濃く覚えることです。これは小学生になってからの漢字学習の際によくするアドバイスの一つですが、毎日一個ずつ計画的に、というやり方は、一見よいようで結果、お家の方が苦労することが多いようです。「やったのに、忘れてしまう」ことに対して、大人である私たちはやるせなさを感じ、結果として、「何で忘れるの!」と、子どもたちを「漢字嫌いにさせる」ための言葉かけをしてしまいがちです。またこのやり方では、子どもたちの「記憶力を育てる」という訓練にはなっていないのです。
一日に覚える数を欲張って設定し、一気に覚えようと努力することで記憶力は鍛えられます。そして、短期間で覚えたものは短期間で忘れるものですから、定着するように繰り返し覚える努力をする。また、大量に一気に触れることは、グループ化(漢字であれば部首で知識を整理するなど)を可能にします。これにより、知らないが似たようなものに出会ったときに類推する力もつきます。そして何より、人間とは不思議なもので、一つの知識の周りに色々なものがくっついていればいるほど(有機的な学習とも言います)覚えやすくなるのです。
これはあくまで記憶力のトレーニングで、知識の詰め込み教育ではありません。「丸暗記もできないで、理解することなどできない」とは上里氏の言葉ですが、記憶したものを理解し、ここで初めて知識となるのですし、知識が豊かな思考力の土台となります。
高学年になったときに、「新しく得た知識を記憶するスピード」という能力で、差があることがあります。理解し、応用していく以前の段階で出遅れてしまうことで、自信を無くしてしまうことにもつながります。子どもたちを見ていると、「覚え方を自分のものとして体得してきたかどうか」が、その子の記憶する力とスピードに、大体比例しています。ほとんどの場合、軌道修正はできます。これまで「記憶力を鍛えようと意識する学習方法」を知らなかっただけだからです。