『絵本のちから―ことばの獲得』
先日、「入学前に揃えたい8冊」というお題で、ある雑誌※の取材を受けました。8冊しか選べないので吟味をせねばと教材開発部のメンバーにも声をかけました。そのときに、参考資料に、と私が本棚の奥からひっぱり出してきたのは、幼稚園時代の「えほんノート」でした。当時私が通っていた幼稚園で実施されていたものです。園の図書室で借りた絵本の名前と、借りた日、「だれに読んでいただきましたか・お家からのたより」の欄には母親のひとことコメントが書かれています。これが実に意味のある発見の連続でした。
年中時代の夏からそれは始まっており、年長の卒園ぎりぎりまでの記録が綴られています。年長になるとよろよろした頼りない文字で「おもしろかった」と自分でコメントを書いていたりしてかわいいものです。
何よりも母の残した記録の欄が面白く、たったひとこと、「何よこれ。どういうこと?ママどう思う?」だけのときもあれば、「面白いしぜったいいい本やから、ママに聞かせたい、と借りてきました」「幼稚園の本は子どもの易しい本やから、もうこれからは自分で読む」「なんで戦争するの」…などなど、子どもならではの視点で発する自由な発言に笑えます。
「帰ってすぐ、服も着替えず、大声で読んでいます」「すーが8回あるのが面白いそう」「魔法の呪文が逆さまと発見して大声をあげて笑っていました」からは、ああやはり幼児は言葉のリズム感を楽しむことに敏感なものだ、言葉遊びが大好きで、発声することが楽しいものなのだな、と幼児の特性を感じます。
「字が少ない絵本だから借りてきたそう」「自分で読める字の分量の本を借りています」などというメモが、ある期間なんども繰り返し出てきます。内容ではなく、自分が読みやすいかどうかで本を選ぶ時代がしばらく続いたあと、「最近は静かに読んでいる時間が長くなりました」と、本当の意味で読書を楽しむ時代へと突入しています。
本の中の役になりきって遊んだりする様子などもしょっちゅう出てきます。絵本とは、疑似体験をして共感することができるものなのだなと改めて感じましたし、「由実もくまさんみたいに優しくしてもらいたい」などと母親に自分の気持ちを伝えるきっかけにもなっています。読後は、まるで花まるの教室で授業をした後のようなあたたかな気持ちになりました。
「あまもりって何」「くやしいってどういうこと」と知らない言葉を質問する場面は何度も登場するのですが、一年半後「最後の家出のときくやしかったんやろな」と、質問した言葉を自分のものとして使えていたことを見つけました。ああ、子どもたちが言葉を獲得していく過程に、絵本の果たす役割は大きいな、と改めて感じました。
最後に「私も先生になりたい、でもこのことは恥ずかしいから書かんといてと言ってます」という母の文を発見。自分がそんなことを言っていたなんてちっとも知りませんでした。
※1月13日発売の『2013年 入学準備 小学一年生 入学直前号』(小学館)でお読みいただけます。 丹保由実