高濱コラム 2005年 5月号

桜花爛漫の贅沢にしばしひたった後には、葉桜の絶妙な赤みがかった美に目を奪われ、すぐにふんわりした萌黄色から、深々とした緑へと濃さを増していく木々の葉に、爽快を感じる。植物の色彩の変化に、時の移ろいを感じ、何か元気をもらうような気持ちになる4月は、一年中でも好きな季節です。

花まる学習会には、今年も、多くの新入会の仲間が加わってくれましたが、花まるに限らず、学校・学級が変わったり、新しいお稽古事が始まったりするこの時期は、お母様方には、心配も多い頃だと思います。せっかく入れたのに、行くことを渋られたりすることもあるからです。この点では、何人もの忘れられない子供たちが思い出されます。

一人の1年生は、やさしい女の子だったのですが、どうしてもお母さんから、離れられません。こういう場合、お母さんが下の子にかかりきりで、悪気もなく構ってあげられない生活であることが、一番多いケースなのですが、原因はともかく、何しろなだめてもすかしても、離れようとすると、すぐ号泣してしまう。周りの子の学習に差し支えることもあるし、そのままでは、いる意味もなくなってしまうので、仕方なく、お母さんがずっと授業中ついてくれていました。

その状態は、2年生の途中まで続きました。お母さんが偉かったのは、そのことで、所謂切れたりとか、愛想をつかすとかいう気持ちに全くならず、落ち着いて笑いながらいてくれたことです。そういうお母さんのがんばりのおかげで、あるとき、彼女の心の中で、何かがジャンプできたのでしょう。帰ろうとするお母さんを、平然と見送り、皆と同じように取り組めるようになりました。

6年生の時には、遅まきながら中学受験に意欲を見せ、それはそれは集中した長時間学習をこなしきり、見事合格できました。そして、思い出としてそのことを持ち出すと、ペロリと舌を出して、「そうでしたっけ」ととぼけて笑っていられる、しっかりした中学生に育ちました。6年生の時に学んだ、ノートを中心とした学習法は、確かに身について、今もたくましく学んでいます。

また、一人の1年生の男の子は、これは甘やかし組なのですが、「うるせえ、俺はやりたくないから、やらないんだよ」などと、先生に平然と言い放つ子でした。こういう態度には、ファーストコンタクトが大事です。そのような振る舞いや言葉遣いが許されないことを、最初の一言に即応で返し、言い返そうが床に寝転がって暴れようが、絶対に緩めず、大人の基準をつきつけます。

初日は勉強にならない文字通りの戦いでしたが、もう二度目には、彼自身が「この空間ではこういうルールなのだな」と納得し始めているのが、見てとれました。仏頂面ながら、座ってはいられるようになり、ちょっとした一言で認められたあたりから、開けた顔になりました。その後は、時々のわがままは顔を見せつつも、だんだん安定してきました。高学年になると、むしろ思考力において、素晴らしい能力を発揮し、難問にこそ、やる気を見せてくれるようにさえなりました。

領土問題が典型ですが、空間上で「問題は境界に発生する」ように、時間軸上も、新しいことが始まる切り替わりの時には、エネルギーを必要とする問題が起こるものです。花まるは、ほとんどどのようなケースでも経験しています。お母さんの安心が一番大事。「ちょっと心配」なことは、どんな些細なことでも教室長を通じてご相談ください。

花まる学習会代表 高濱正伸