サマースクールのどのコースも、勉強合宿も、感動がいっぱいの濃密な時間で、忘れられない思い出がたくさんできました。その中の一つのエピソードを紹介します。
アウトドア基礎訓練の国は、長野県の青木村という村の、毛穴中から情熱が吹き出ているような教育長との出会いで実現しました。地球クラブというその体験フィールドは、背後に大きな池を控えて、二つの山並みの尾根から尾根まで、谷間全て見渡す限りどこで木を切ろうが、どこで火を燃やそうが自由、ただし自分で決めろというルールで運営されています。テント設営から火熾し・飯ごう炊爨・五右衛門露天風呂設営まで、自分たちで行います。5年生から中学生までが参加し、斧での薪割りにも挑戦しました。
班ごとに分かれて、森の中に秘密基地を作っているときのことでした。5年生のTさんが、涙目になって近寄ってきました。どうしたのと聞くと「みんなが、私のことを仲間はずれにする」とのこと。Tさんは、ある特別な能力を持っている不思議な子なのですが、感性豊かで鋭い反面、発言が、時として周りと同調しないときがあるのでした。
それまでは、楽しくやっていたので、まあ一時的な問題だろうと判断し、「そうか、それはつらかったね。でも、私は基本的に子どもの人間関係には、立ち入らないんだよ。将来、色んなことが起きても自分で乗り越えなければならないからね。自分で考えてみてごらん。ただ、それでもやっぱり困ったら、またおいで」と彼女に言いました。
私は、谷の奥にあるテントに片付けに行き、しばらく作業をして降りてきました。すると、中3のK君が丸太に座り、横にTさんを座らせ、肩に手を置いて、顔を覗き込みながら、何か話しています。それはとてもおだやかで、諭すような雰囲気でした。私が見つけてからだけでも、10分以上は話していたと思います。終わったなと思ったら、Tさんは、森に駆け出して行きました。後で聞いたら、「私の言いかたの悪いところとかを、教えてくれた」とのことでした。
K君は、年長さんから花まるに参加してくれている一人っ子で、サマースクールは9年間皆勤賞というくらい信頼して参加し続けてくれました。初めてのときには、お母さんは、「予定表をいつも横に置いて、『ああ、今川遊びなんだな、今夕ごはんだな、ちゃんと食べてるかな』と、如何に心配だったか」と、教えてくれたものです。順調に大きくなり私立中に合格したと喜んだのも束の間、クラスの人間関係でとてもつらい目に遭ったりもしましたが、結局それもしっかり乗り越えてくれました。
そんな歴史を見続けてきた子が、寂しい気持ちになっている子を発見するや、違う班なのにすぐに駆け寄り、哀しむ心に寄り添い、それだけでなく的確なアドバイスまでしてくれた。いい男に育ったなあと、言い表せない喜びがこみ上げてきました。きっといくつもの負の経験があるからこそ、彼はたくましくなれたのでしょう。
勉強合宿にも参加したTさんが、「ああ、コクればよかった」と言ったのには、笑ってしまいましたが、確かに彼女は、頼りがいある魅力を、感じたのでしょう。このような長期のドラマを見られる現場から、当面離れられそうにありません。