高濱コラム 2006年 8月号

一人の青年の結婚式に出席しました。20歳も齢が離れているのですが、高校も大学も同窓のそのI君および友人たちとは、親密なつき合いが続いています。花まる・FCでも時間講師をやってくれて、多大な好影響を与えてくれました。サマースクールでは、理科実験の国で子どもたちを大笑いさせながら実験を指導してくれたのですが、その実力の一方で、彼の班のみ5時起床に失敗して、全員、寝癖頭に寝間着のまま目をこすりこすり、宿から出てきた姿のおかしさなどは、忘れられません。

高校の同窓の先輩に、社会人としての経験談を聞く、同窓会内のサークルを立ち上げ(それは、いまだに4代目・5代目となって継続しています)たり、お互いお金のことが弱いからと、一緒に「マネー研究会」を開いたりしました。研究会での彼のレポートは、凄みのあるもので、とうとう彼は金融の最先端でディーラーを本業とするまでになったのですが、溌剌たる若い頭脳と勉強するありがたみを感じました。

さて、披露宴です。にぎやかな式典中、気丈にふるまっていたお母さんが、最後の新郎の挨拶で、父親のことに触れたとたん、堰を切ったように泣き出されました。実は、彼が小3のときにお父さんが亡くなって、女手ひとつで彼を頭に3人の子を育てられたのでした。

I君曰く、「うちはお金は無かけんね」が口癖というお母さんですが、人には言えないそれは多くのご苦労を乗り越えて来られたのでしょうし、一人息子がこの日を迎えた喜びは、格別のものだったでしょう。いつにも増して、機関車のようにシュポシュポと気迫のオーラを出して切り盛りされる姿も、「大事な息子の晴れの式典を、成功させるぞ」という強い思い故だったのでしょう。そんながんばりぬいた母心を思うと、泣けて仕方ありませんでした。

そもそもI君との出会いは、8年前の同窓会でした。我が母校熊本高校は、18歳から80代まで全学年が集う大同窓会を年一回開いているのですが、ちょうど小中学校の子どもがいそうな年齢ということで、私の学年のテーブルに当たりをつけて、I君とその友人が家庭教師の営業をかけてきたのです。生きる力や気力の無い青年の問題を日々考えていた私は、そのハングリーな行動がいっぺんで気に入って、知り合いの家庭教師のアルバイトを世話したのでした。

今思えば、彼のその振る舞いの後ろには、一心に子を思い、必死に生きたお母さんの生き様があったのだと思います。強い母の大きな愛に育まれたからでしょうか、優しさも抜群なI君。大学で再生医療に関する特許を取得したのですが、当時の指導教官はそのことにはほとんど触れず、「彼の大きな特徴は、人への思いやりに満ちていることです」と紹介してくれました。お母さんにとっても嬉しい言葉だったでしょう。

さて、夏休み。一点注意を促すとしたら、早寝早起きの励行です。子どもの寝坊は、心の毒。旅先だろうが帰省先だろうが、リズムを崩さずに暮らしましょう。その上で、多様な経験に満ちた、充実した夏となりますように。

花まる学習会代表 高濱正伸