高濱コラム 2006年10月号

「小3までに育てたい算数脳(健康ジャーナル社)」を上梓したのは昨年の夏でした。おかげさまで、保護者から保護者へとリレーしていただく形で読まれ続け、一年たった今もAmazonの教育書のトップセラーから落ちずにいます。その影響で、会員の皆様にはおなじみの「なぞぺー」が、「声に出して読みたい日本語」の草思社から、この夏3巻連続で出版されました。どちらも、本のために書いたのではなく、創立以来、会員向けに地道にお話ししたり作ってきたりしたことが、広く認められる結果となったことが、嬉しいです。

これもひとえに、何の実績もない私に花まる開催の機会を与えてくださった幼稚園の園長先生や、無名の教室に、これまでお子様を預けてくださった保護者の皆様のおかげです。ありがとうございました。

14年目の今年は、組織として徐々に力をつけ、サマースクールも「体験部」の社員の若者たちが、完全に動かしきりました。アルバイトレベルでは、班のお兄さんお姉さんとして、何人もの卒業生が参加してくれました。

勉強合宿に参加した大学一年生のN君も卒業生。5人しかいない小さな幼稚園教室に、第一期生として入会しました。1年生のサマースクールで、森の土は落ち葉が積もってフカフカでというような話をしたとき、ツカツカと寄ってきて「腐葉土のことですよね」と言った一言が忘れられず、覚えていたのですが、何と現役で東大に合格して、講師希望で戻ってきました。「なぞぺーのおかげで考えることが好きになったんですよね」と、言ったので、そのまま本の帯に使わせてもらいました。

一方、こんなこともありました。スクールFCに中1から入会した少女Hさん。私立の小学校から公立に入りなおしたことでも、何かつらいことがあったことは想像できましたが、やはり当初は落ち着かない様子でした。しかし、徐々に安定して無事高校に合格したのです。ところが卒業後、最後の一年近く学費が納入されていないことが発覚しました。もともとそのお兄さんも私の友人で、ご両親の仕事がうまく行っていないことも知っていたので、逡巡はありましたが、ルール通り督促状を出しました。音沙汰なく連絡がとれなくなったのですが、数年後に突然電話が入り、訪ねてきました。封筒には学費分のお金が入っていて、「申し訳ありませんでした」と頭を下げました。聞けば、大学生になったので、アルバイトで稼いで貯めたとのことでした。

けじめをつける毅然たる振る舞いに、本当に立派になったと感動したものですが、またそれから数年、この8月の終わりに手紙が届きました。中には、ウエディングドレスのHさん。まじめで健康そうな新郎と並んで幸せそうな笑顔で写っていました。「不安定な時代を、FCで過ごせたので、今の自分があります。ありがとうございました。」という手紙が入っていました。

13年半、毎日全力の日々でしたが、振り向けば百花繚乱。数年の空白を経て、突如就職や進路の相談に来る大学生なども増え、教育の仕事についた有難みをかみしめることができた夏でした。

花まる学習会代表 高濱正伸