高濱コラム 『行く川のながれ』

『行く川のながれ』2015年3月

 先日、高校の同級生たちと飲み会をしました。40年前に、阿呆な青春を共有した仲間で、すぐに昔の空間に戻り楽しかったのですが、4人中、癌を患って現在完治したのが一名、現在も治療中が一名でした。「お前が飲まないって、おかしいと思ったぜ」と言いながら、手術の成功をほろ苦く祝福しましたが、「そうだよな。そういう年齢なんだよな」と、思い知らされました。
 青春の町熊本市は、道の配置こそ変わらぬものの、知らない店ばかりで、多くの家は建て変わっていました。車も人も昔と同じように行きかっているし、今にも制服の同級生が自転車に乗って現れそうなのですが、世代はすっかり入れ替わっています。こういうときに、お城の石垣や大楠や山並みを見ると、変わらないな、それに比べて人間の一生なんて、はかないものだなと痛感させられます。
 同じ感慨は、800年も前に鴨長明が記しています。

 「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまりたる例なし。世中にある人と栖と、またかくのごとし。
 たましきの都のうちに、棟を並べ、甍を争へる、高き、いやしき、人の住ひは、世々を経て尽きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔しありし家は稀なり。或は去年焼けて今年作れり。或は大家亡びて小家となる。住む人もこれに同じ。所も変らず、人も多かれど、いにしへ見し人は、二三十人が中に、わづかにひとりふたりなり。朝に死に、夕に生るゝならひ、たゞ水の泡にぞ似たりける。」
(『日本古典文学大系30 方丈記 徒然草』岩波書店)

 齢を重ねしみじみとこの無常を感じるとき、人は「未来を感じるもの」に、思い入れを強くします。

 先日、23歳の青年が、幼稚園教室に遊びに来てくれました。姉と弟に囲まれた、私と同じ兄弟構造の大らかで誠実な子でしたが、お姉さんが結婚したということ、柔道整復師として自立したということを満面の笑みとともに報告してくれました。肩ももんでくれたのですが、サッカーと野球で小中高鍛えぬいた肉体は、体幹の強靭さを感じ、マッサージも握力と筋力を感じるものでした。
 また、花まるを始めた頃、家庭教師をしていた、当時小学生だった子が、ある歌人との共著ですが本を出版したと連絡してきました。『「ニコニコママ」にハズレなし(三元社)』。幼稚園の副園長として、時々悩み相談を電話で受けていましたし、頑張っているのは分かっていたのですが、執筆をしているとは知りませんでした。書名を見て、明らかに私のDNAが注入されているなと、微笑ましく感じましたが、当時小太りで、甘ったれだった少年が、精悍な青年に変貌し、自分の言葉を世に問うまでになったことに、驚きを感じました。
 彼らを見ていると、ある樹木の種をまき、双葉から少し成長したころを見届け、時間を置いて戻ってみたら、「木になってるじゃないか!」と確認したようです。自然の理でもあるのに、こんなに心動かされるのは、自分がいつ消えるともしらない泡の年齢に達したからでしょう。

 さらに、このところ、行く先々で赤ちゃんを抱っこすることが増えました。主に、教え子や部下の子で、ちょうど孫みたいなものです。自分の孫を抱くことはなさそうですから、「一回抱っこしたら孫」と決めて、愛を注ぐことにしているのですが、それにしても、一人ひとりの赤ちゃんの、とろけるような可愛さ。そのお母さんの幼い頃や若い頃を知っているときの、思い入れの深さは、この歳になるまで、分かりませんでした。
 
 この一年くらいは、何だか、このような新世代の成長や生命力への感動を、強烈に味わう機会が多かったように感じます。21年間一つ事を営々と、ただひたすらに継続してきて、振り返ると広大な土地に一面の稲穂がユサユサと揺れていたというような、実りの感覚でもあります。そして、これから何度も「木になった感動」をいただき、もっともっと多くの「孫」を抱かせてもらえるのでしょう。
 
 さて、新年早々、花まる学習会の男性社員を全員連れて、群馬倉渕に合宿に行きました。「男合宿」と銘打ったその中身は、「どうすれば同僚女性社員を幸せにできるか」の特訓です。今、目の前にいる一人を喜ばせられずに、保護者のお母さんや将来のパートナーを幸せにできるわけがないだろうという問題意識。講義あり、話し合いあり、場面設定したロールプレイでどう声かけするかの競い合いあり、夜を徹して盛り上がりました。
 どの程度結果が出たかは、女子社員の判定ですし、これからの日々の行動次第ですが、少なくとも女性陣は、その動きを知って、すぐに自分たちも女子合宿をしてくれましたし、男たちがそういう気持ちになったことだけでも、喜んでくれたと感じています。

 もうここまでくれば迷いはありません。幼い命・若い命の存在に感謝し、彼らの力になれるように、自分の信じる道を邁進したいと思います。

花まる学習会代表 高濱正伸