花まる通信 『母の存在』

『母の存在』2015年3月

今回の年末年始は、野外体験企画の“ 雪国スクール” へ2度引率として参加して参りました。そのうちの1コースは男の子8人の班リーダー。1年生~4年生までの異学年混合班です。
 そこで改めて感じたのは、男の子はお母さんが大好きな生き物だということ。3泊4日の中で何度お母さんを想うセリフを聞いたでしょう。
 行きのバスでワクワクしている子どもたち。長い長い関越トンネルを抜ければそこは別世界、白銀の世界が広がっています。車内ではどの子も感嘆の声をあげ、これから起こる様々な出来事に心を躍らせます。私の班の男の子たちも例に漏れず、みな興奮していました。その中でもある2年生の男の子S君が、「うわぁ~!!」とひとしきり目を見開いた後「これお母さんに見せたかったなぁ~!」となんとも良い表情をしたのが印象的でした。
 そんな調子でうちの班は“ お母さん好き” を隠さない、なんともほのぼのとした班となりました。当然夜になればホームシックが始まります。2年生のT君が「ママに会いたい。帰りたい。」と泣き始めると、初めは「どうしたのかな?」と心配していた男の子たちも続々とつられて涙顔。チームでは上級生でムードメーカーの3年生と4年生の男の子も布団の中でシクシクと泣き始めました。一度思い出してしまうとどんどん想いは強くなるもの。その日は頭を撫でながら、翌日のスキーの話をして眠りにつきました。
 さて、2日目はいよいよ待ちに待ったスキーの日です。ところが天候は吹雪。じっとしていると頬に雪が突き刺さるように痛く、板の履き方やカニ歩きから習う初心者の彼らには過酷な寒さです。早めに午前中の活動を切り上げ、急遽彼らに迫られたのは午後の活動を「雪遊びにするかスキーにするか」という究極の決断。個人が選択した方に参加できるようにプログラムを変更です。他の班は身体を動かせる雪遊びを選ぶ子たちがほとんどです。ところがうちの班の男の子は選択の基準が一味違いました。「僕、スキーにする。だってお母さんとスキー上手になって帰ってくるって約束したもん。」と2年生S君。「僕もした。僕もスキーにする。」と乗ってくるのは昨日大号泣だった2年生T君です。他の子に「雪遊び一緒にやろうぜ!」と言われても2人は頑としてなびかなかったのです。結局うちの班では8人中4人がスキーを選択するという他の班にはない参加率となりました。おもしろいことに、初日行きのバスでお母さんを想っていたS君と、昨夜泣いていた3人の男の子たち全員が過酷なスキー特訓の道を選んだのです。
 3日目は快晴! 最高のコンディションでみなスキーの練習を始めます。前日厳しい寒さの中スキーの特訓をした彼らは、報われるように4人中3人が未経験から初級、中級と昇級しリフトに乗りました。山の上から降りてきた彼らの興奮を見ると目頭が熱くなりました。
 3日目の夜、「オレ、母ちゃんにこの3日間で強くなってこいって言われた。」と言ったのは1日目に泣いていた4年生の男の子。母が我が子を片時も忘れないように、きっと誰もがこの3日間いつも心配してくれるお母さんのことを想い続けていたでしょう。だけど泣いたのは1日目だけ。2日目、3日目は誰も泣かずに眠りにつきました。
 母を想って後ろ向きになる時もある。だけど必ず母の存在がそっと背中を押し、着実に子どもを強くする。そう強く実感した3日間でした。

車田 有萌