花まる通信 『サクサクあつあつの励まし』

『サクサクあつあつの励まし』2015年5月

「今日家にいる?」と母親にメッセージを送ると、すぐに「いるよ(^^)」と返信がありました。その日はいつもより早く仕事が終わりそうで、次の日も休みでした。ふと、「実家に帰ろうかな。」と、思い立ちました。私の家から実家は、電車を使って一時間半ほどの場所です。帰ろうと思えばいつでも帰れる場所なのですが、「いつでも帰れる。」と思うと、かえって足が向かないものなのでしょうか。引っ越した当初は「寂しいから毎週帰るかも!」なんて言っていましたが、思ったほど帰ることはありませんでした。「帰るかも!」と母親に返すと、「帰っておいで(^^)」と言ってくれました。母親のその言葉に、すっかり「今日こそ帰るぞ!」という気持ちになったのですが、上司からの一本の電話で状況が変わりました。私のミスが原因でトラブルが起き、急遽対応が必要になったのです。私は母とのやりとりなどすっかり忘れて、事態の収束に向けて動きました。自分のミスが悔しい気持ち、上司に迷惑を掛けてしまって申し訳ない気持ちなどが合わさって、涙が出てきました。こんなこと、初めてでした。いい年をして泣いている自分が情けなくて仕方がありませんでした。「子どもたちにはもめごとが大事って言っているのに、自分はなんて打たれ弱いんだろう。」と思いました。時計に目を遣ると、いつの間にか2時間も経っていました。「あぁ、そういえば帰るかもって言っちゃったっけ。今日は無理そうだな。」と思った、まさにそのタイミングで、母からメッセージが届きました。「グラタンだよ(^^)何時に帰る?」と。その瞬間、子どものころに戻ったような心地がしました。さっきとは違う涙が溢れてきました。
 母の作るマカロニグラタンは、小さいころから私の大好物です。マカロニと鶏肉、玉ねぎのシンプルな具に、ホワイトソースがたっぷりかかっているグラタン。パン粉と粉チーズをふりかけて、最後にバターを二か所落として、仕上げにオーブントースターで焼く、あつあつのグラタン。子どものころ、上のカリカリがあまりにおいしいので、自分でパン粉と粉チーズを山盛りにして焼いてみたこともあります。(「バランスって大事・・・。」と、思い知らされました。)「今日はグラタンがいい!」と言っても、「ホワイトソースを作るのが面倒だから、今日はダメ!」と、なかなか作ってもらえなかった記憶もあります。グラタンが出てくる日は、きっと母に時間の余裕があるときだったのでしょう。「そんなに食べたいなら、レストランで食べればいいじゃない。」と言われるのですが、外で食べるグラタンは、なんだか全然違うのです。私にとって母のグラタンは別格で、「お母さんはグラタン屋さんをやればいいのに。」と、本気で思っていました。食べ盛りのときには、必ず夕食に二人前食べて、おまけに次の日の朝食にも食べていました。「よくそんなに食べられるねぇ。」と、母が隣で笑ってくれることも、なんだか嬉しかったものです。
 「グラタン」の文字を見て、とてつもなく家が恋しくなりました。子どものころは、外でどんなに嫌なことがあっても、家では母が、母のごはんが、私を待っていてくれました。そのことこそが私に力を与えていたのだと、今になって気が付きました。どんな励ましの言葉よりも、母のグラタンが強いのです。その日、少し無理してグラタンを二皿たいらげました。「本当に好きなのねぇ。」と、母は笑っていました。

槌田 あゆみ