『色の教育』2015年12月
色に対しての教育について、みなさんは考えたことがあるでしょうか。4~5才の子どもたちは、色を混ぜるとどうなるかという実験が大好きです。目を丸く見開いて驚いたあと笑顔になり、感動と興奮が入り混じった表情に変わります。知的好奇心が引き出され、脳がフル活動しているときのあの表情。私はこれを色の原体験、と呼んでいるのですが、このような何かに対する原体験がいくつあるかで、子どもたちのその後の人生の豊かさは変わってきます。この時期の子どもたちにとって、遊びこそが学びだとはっきりわかる瞬間でもあります。
最初に色について私に語ってくれたのは母方の祖父でした。1年生の夏休みになると、ひとりで祖父母宅に泊まりに行く習わしが始まりました。迎えに来た祖父の車の助手席で、もう一人なんだということをじんと感じながら黙って座っていると、山に向かって走っていく道々、目の前の空に、虹が見えました。私の緊張が一瞬解けたすきを狙ってか、祖父は私に問いかけました。「虹の色は言えるか?」と。当時人前で話さない子だった私は、声も出せずにいると「最初は赤から始まって、橙、黄色、黄緑、緑、青、その次は何かわかるか…」と話し続けてくれました。ホッとしていると祖父の質問は続きます。「ほんなら英語で言えるかなぁ、赤はレッドやなぁ、橙は知ってるか…?」私が3年生の冬に亡くなった祖父との会話(私は話していませんが)は、覚えている中でこれが一番長いものとなりました。
祖父の亡き後今度は祖母が、色について語ってくれました。それはいつも洋服ダンスの前で、でした。お洒落が大好きなハイカラばあちゃんだった彼女は、「由実ちゃんこの赤いスカートの上には、何を合わしたらええと思うの」「靴下の色は何色にするの?その襟元のグリーンとあわせなあかん」「この水色とイエローの組み合わせを見てみ」…色と色を組み合わせたときの美しさ、全体をコーディネートする視点…。祖母は洋服を例えにして、色の世界をさらに深く広げてくれました。これが私の、色の原体験です。
みなさんの、色にまつわる原体験は、どんなものがあるでしょうか。
子どもたちに色を教えるときには、「何々の何色」という言い方をしてあげるとよいでしょう。同じ黄色でも、「ひまわりの黄色」「ミカンの黄色」というように。そして「群青色」「萌黄色」「藍色」というような、日本独自の色合い、色の名前も伝えてあげられるといいですね。このような習慣が、子どもの色に対する認識を大きく広げることになるのです。他にも、色には「黄色い声」「真っ赤な嘘」など慣用句でたくさん登場します。色に少しでも興味を持つようになって来たら、こんな言葉の使い方も教えてあげるとよいでしょう。子どもたちが、色の世界をどんどん自分で深めていけるように。
次回は「表現すること」についてお話します。
レロ由実