一年目が終了した時点でアンケートをとったところ、おかげさまで「楽しかったか」「成長したと思うか」という質問に、9割以上の子たちが、肯定的な回答をしてくれました。二年目は、親子で簡単にできる手作りパズルを推進しています。
一年かけて信頼の基盤を築くことができましたが、当初は、評論家の批判的な意見を地元の新聞に掲載されるなど、決して順風というわけではありませんでした。そんな中、一番最初に「素晴らしい授業ですね」と認めてくださったのがH先生です。長身痩躯のH先生は、眼光鋭くあまり愛想はないのですが、なぞぺーや教具など持ち込むものに対して、ここが面白いという視点が的確でした。
研究会で「私は必ず授業に『遊び心』を入れるようにしている」というと、すぐに実験して報告してくださるなど、誠実な対応が光りました。生徒にも心は浸透していて、スタートのときには取り立てて目立ちませんでしたが、一年間の成長は明らかで、私から教具を受け取るときには直立して頭を下げる、アルゴの勝負では1人残らず笑顔で集中できると、マナーも取り組み姿勢も抜群に育ちました。
懇親会でのこと。そんなH先生は、隣村の清流で、朝から晩までカジカとりに熱中して育ったそうです。テレビを置いたことがなく、家族の団欒は新聞・読書・ラジオ。人一倍熱心な教師である一方、趣味は郷土史の研究。今は群馬と長野の交易の道を探すのに燃えていて、つい先日ついに幻の街道の痕跡である家光時代の石の祠を、ここと目をつけた草ぼうぼうの山中に発見したんだと、キラキラした瞳で教えてくれました。やがて資料として出版されるそうです。
そんな先生が、幼少時は「カニとりしんちゃん」と呼ばれるほどにカニとりに夢中になって、一年生からヤマメ釣りをして育ち、今や源流釣りの名人で、出遭ったクマが大慌てで逃げ出すというK先生と、「みどりの少年団」という部活的な組織を引率して、植樹の小旅行に行った話は、素敵でした。
休憩所の下に川があった。町の学校の子たちは、行こうと思いつきもしない様子だったが、普段川遊びばかりしている青木の子は、ワーッと下りていって、ピョンピョン石を渡って遊んでいた。
和田峠というところで、全体から離れて青木の子たちだけ、山の上の眺めのいい草地に陣取った。最初にH先生が、見える景色について説明したあと、K先生の音頭で、県歌である「信濃の国」を合唱した。♪四方(よも)にそびゆる山々は、御嶽、乗鞍、駒ケ岳・・・と、文字通りの三山を一望にながめながら、歌った。「子どもたちの歌声が、すっばらしかったんですよ」と。何か映画のワンシーンのように、光景が浮かびました。
それにしても、大自然に育まれ、大人として良き人生を送るH先生のような方に、触れられる子どもたちは幸せです。彼らの心には、「ふるさと」という言葉が、日々、深く刻まれていることでしょう。