西郡コラム 『背負う覚悟』

『背負う覚悟』 2016年10月

花まるがプロデュースする北相木小学校は長野県南佐久郡にある。この南佐久郡の小中学校の校長、教育長、教育委員の合同会議で「公教育と民間学習塾の提携」というテーマで話をしてほしいと要望があり、校長、教育長に北相木、武雄市をはじめ花まるが提携する公教育の事例を交えて、学校づくり、地域おこしについて話をした。
 北相木小は児童数28名まで落ち込み、廃校寸前になった。学校がなくなると村が廃れる。何とか学校を存続させたい。赤字覚悟で山村留学センターを作り、児童数の確保をめざすも人数が集まらない。そこで当時の教育長と学校長の間で話し合い、花まると提携しようという決断に至った。もちろん学習塾との提携に反対する人たちも多い。しかし、2人の心の中にあったのは学校がなくなるということへの危機感。それがばねとなり、2人は反対者を説得した。ただ花まるに何とかしてほしい、ではうまくいかない。教育長をはじめ教育委員会が強い意志で学校、先生、保護者を説き伏せること。主体は花まるではなく、行政であること。学校の先生は4,5年もすれば変わる。先生が変わったら継続しないでは、教育改革は一過性のもので終わってしまう。先生が変わってもやり続けるかどうかは教育委員会が改革の責任を負う自覚があるかどうかだ。
 学校の先生が自ら花まるの理念、メソッドをどのように学校教育に取り入れようとするのかは、先生の主体性の問題でもある。北相木小の校長、教頭、先生全員は、教育長とともに月曜の休校日を利用して、東京・お茶の水の花まる学習会、SchoolFCの授業を視察に来た。花まるの生の授業から、感覚として学びたい。民間は保護者の支持がなければつぶれる。今の時代にどんな教育が必要なのか、求められるのか日々探求する。学校で始まった新たな取り組みの定着のためには、先生自身が学び続けることも大事なのである。
 月に一度、私たち花まる社員が学校で「思考力(なぞぺー)授業」を行う。しかし、月に一度の花まる授業だけでは、成果は出ない。どう継続させるか。学校は「花まるモジュール」をはじめた。音読、サボテン(基礎計算)、あさがお(転写)、キューブキューブやパターンメーカーなど、花まる教材を使ったモジュール授業を学校では毎日行う。月に一度の私の授業では高学年でも音読をする。低学年で大きな声で解放をする音読から継続して、400字程度の子ども新聞の記事を1分間で相手にわかるように母音を意識してスラスラ読むという時間をとっている。実際読ませてみると、全員が集中してスラスラ音読できている。北相木小の学力テストが全国平均を大きく上回るのは、音読の様子を見ただけでもわかる。
 そして、最も大切なのは、花まるを取り入れることを先生自身が楽しんでいることだ。当然だが、先生が変われば子どもも変わる。授業に集中する子どもたち、変わっていく、成長する子どもたちを目の当たりにする充実感が、「やっていて楽しい」ということにつながる。そして、魅力的な先生が子どもたちを惹きつける。
 校長、教育長、教育委員会を前にこんな話をした。「どこまで響いたか。花まると提携をするだけでは何も生まれない。自分たちが変える覚悟があるかどうか。」覚悟のある自治体、学校には花まるも喜んでお手伝いする。

西郡学習道場代表 西郡文啓