『方程式は教えたほうがいいのか』 2016年10月
「算数の問題を方程式で教えてもいいですか。」
というご質問を中学受験生の親御さんからいただくことがあります。
わが子から「わからない問題があるから教えてほしい。」と言われ、実際教えているうちに、「これ、方程式で解いたほうが簡単じゃないか。方程式は使ってはいけないの?」という疑問をお持ちになるのだと思います。
たしかに中学受験の問題には方程式で解いたほうが簡単に見える問題もあります。
たとえば、
【例題1】りんご5個、みかん3個を買えば代金の合計は340円のはずでしたが、個数を取り違えて買ったため、代金の合計が300円になりました。りんご1個、みかん1個の値段はそれぞれいくらですか。
この問題であれば、りんごの値段、みかんの値段をそれぞれX、Yとおいて、
5X+3Y=340, 3X+5Y=300 とすれば、連立方程式で解けます。
しかし次のような問題ではどうでしょうか。
【例題2】A、B、C、Dの4人の生徒が算数のテストを受けました。AはBより10点低く、Cより5点高く、CはDより4点低く、4人の平均点は72点でした。Aは何点でしたか。(ラ・サール)
A=B-10, A=C+5, C=D-4, A+B+C+D=72×4
式は立てられても解くことができません。この問題はAからDまでの4本の線分図をかいて、Aにそろえるように合計を調整すれば、簡単に解くことができます。
さらに、難関中学で出るような発展問題になると、方程式を立てることのほうが難しい場合もあります。また、高校入試の問題でも、方程式よりも受験算数のやり方のほうが解きやすい問題もあります。
見方を変えると、受験算数の問題には、非常に幅広い応用力と数理的思考力を伸ばす要素が詰まっていると言えます。そのため、SPI、入社試験、公務員試験などでも頻出なのでしょう。
ところで、受験算数ではXやYなどの文字は使いませんが、方程式と同様の方法で解くこともしばしばです。わからない値段や個数を①とおいて、式を立ててその①を求めるのです。
【例題3】ある本を1日目にその本の1/3を読み、2日目は残りの3/5を読んだので、20ページ残りました。本は何ページありましたか。 ※1/3は三分の一、3/5は五分の三、を表します。
本のページを①とすると
1/3+2/3×3/5+20=①
11/15+20=①
4/15=20
1=20÷4/15=75 答え 75ページ
本のページをXとおいて解く方程式と同じですね。
数学と受験算数は別物であると思われがちですが、受験算数では文字の代わりに比を使っているだけで方程式と同じことをやっています。中学で比を使って解く方法が出てこないのは、方程式を学ぶからなのです。そう考えると、中学受験生が文字を使った方程式のやり方を身につけてもあまりメリットはないと言えます。
さて前述の例題1も実際には「消去算(連立方程式と同じ解き方)」で解くこともできますが、次のような考え方のほうが、のちのちの解答力の幅は広がります。
りんごもみかんも8個ずつ買ったら、300+340=640円
ということは、りんご1個とみかん1個の和は、640÷8=80円
また、りんご2個とみかん2個の差は、340-300=40円
だから、りんご1個とみかん1個の差は、40÷2=20円
よって、和差算で、りんご1個は、(80+20)÷2=50円。みかん1個は、30円。
受験算数はとても奥の深い楽しくて美しい世界です。親子で取り組む場合も答えを出すことだけでなく、その過程も楽しんでいただきたいと思います。