『教科書雑考』 2017年7月
平成30年度から使用される小学校の道徳の教科書で、「パン屋」の表記が「和菓子屋」に変えられたことに、ネットで批判が殺到したという話がありました。「全体として、わが国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着をもつ点が足りない」という文科省側からの意見に対して、出版社側の判断で変更になったということですが、パンは給食に欠かすことのできない食材であり、給食制度そのものが日本の文化として生活の一部になっているわけですから、ちょっと皮肉めいたものを感じてしまいます。さらに道徳の教科化について言えば、「人に迷惑をかけない、嘘をつかない」といった、人として当たり前のことを大人自身ができているのか。テレビをつければ、いや証人喚問だ、百条委員会だと嘘つき探しで政治や行政は停滞しています。基本的なモラルを学ぶべきなのは、子どもたちよりも大人のほうではないかと思わせるニュースに最近はうんざりしてしまいます。大人が正々堂々と正直に生きることが何よりも子どもたちのお手本になるという意識を持ち続けたいものです。
道徳とあわせて実施される英語の教科化については、私は基本的には賛成の立場です。もともと日本の中学校の英語教育は非常に高い水準にあり、それは教科書を見れば一目瞭然です。それにも関わらず、「あんなに英語を勉強したのにしゃべれない」という言い方で日本の英語教育が揶揄されてきた理由は、大学入試がまだまだ「読み、書き」偏重の入試だったために、中高の英語教育が「聞く、話す」の指導に軸足を置けず、中途半端な立ち位置になってしまったという事情があったからです。しかし、2020年の大学入試改革で4技能を外部試験で測る制度に変わりますから、この先は英語教員の確保など現場の問題が解決していけば、小学校から英語を学ぶことで、使える英語を身につけるチャンスは広がるだろうと期待しています。
ちなみに私が中学生のころの英語の教科書は、使わないフレーズの代名詞とも言われる「This is a pen.」が登場するものでしたが、今はどこにもその言い回しは出てきません。現行の教科書のほとんどが会話文で構成されている中で、This is~の形を学ぶのに、名詞がpenである必要はないわけです。こうした不自然な表現を見直し、生きた英会話を身につけるための単語、フレーズ、知識などが豊富に掲載されているのが、今の中学校の教科書です。中学3年間、教科書だけをしっかり学べば、ある程度の日常会話は可能になる内容になっています。たとえば、中学2年生では、電話のかけ方、e-mailの書き方、プレゼンテーションのやり方、前置詞のイメージ図、発音記号と発音の仕方、会話の相づちやつなぎ言葉の例など、カラー写真や絵などをふんだんに使った非常に優れた英会話の教本になっています(大人の英会話の学び直しの教材としてもうってつけです)。その意味では日本の教科書というのは、本当に練り込まれたすばらしい学習教材と言えるのです。
このことは小学校の算数の教科書にも当てはまります。
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いちごがあります。3個ずつとっていくと2個残り、4個ずつとっていくと3個
残り、5個ずつとっていくと4個残りました。最初にいちごは何個ありました
か。いちごは100個以下です。
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中学受験用テキストに出てきそうな問題ですが、教科書の5年上に出ている問題です。詳しい解説は省きますが、3、4、5の最小公倍数である60から1を引いた59個が答えです。
小学校の教科書には、ダイヤグラムや通過算、つるかめ算や食塩水、合同や相似などの中学受験にしか出ないと思われている内容がさりげなく載っています。しかしこのような問題を学校の授業であまり扱わないこともあり、子どもたちは学びの機会を逃してしまっています。
また、学校の授業で扱う場合でも、それ以前に塾で習ってしまう子もいるため、「中学受験の内容は学校の内容とかけ離れているから、教科書レベルのことをやっていても意味がない」という誤解が生まれるのです。
しかし実際には、小中高を問わず、最近の学校の教科書は、楽しくてわかりやすく、詰め込みではない、考える力を伸ばすための工夫が数多く施されています。それは私が子どもだった頃とはずいぶん異なります。ですから、たとえすでに塾で習っていても、学校の授業や宿題を疎かにしないように、私は事あるごとに子どもたちに伝えています。
機会がありましたら、わが子の使っている教科書をぜひご覧ください。大人でも楽しめる内容が見つかるはずです。