『なぜ山に登るのか』 2017年12月
最近、登山を趣味にしている人によく出会います。先日、母校の創立100周年記念式典に招かれ故郷に戻りました。私のような年齢になると、同世代の話題の中心は、「どこが悪い、どこが痛い」などの病気や健康の話になりがちですが、こうした集まりに来る人たちは、バリバリ働きながら充実したプライベートを過ごしている方も多く、同級生たちは登山の話で盛り上がっていました。もともと山に囲まれた小さな村で育った私は、学校に行くにも歩いてひと山越えなくてはなりません。毎日が登山のようなものです。ですから、登山を趣味する人たちがいることを知ったときは、何が面白いのかまったく理解できませんでした。しかし、不思議なことに、その私が最近登山をしてみたいと思い始めているのです。抗うことのできない大自然を目の前に、自分の力だけを頼りに頂上を目指す。そこには登った人にしか見ることができない雄大な景色や経験できない達成感がある。そんな非日常的なシンプルさに魅かれているのかもしれません。
同級生の話に耳を傾けながら、「おれも山登り始めようと思っているので、今度一緒に連れて行ってくれないか」と軽い気持ちで話してみたのですが、「じゃあ、まずは高尾山くらいから始めたほうがいいよ。そこからだね」と、やんわりと断られました。物事には順番があるということなので、来年はしっかりと基礎を磨く一年にして、実績を積んでから仲間に入れてもらおうと思っています。
プロの登山家の方にもお目にかかる機会がありました。リレハンメル・長野オリンピックのモーグル日本代表でもある三浦豪太さんです。父はかの有名な三浦雄一郎氏。54歳で世界七大陸最高峰全峰からの滑降に成功したのち、病気や大きなけがに見舞われながらも、70歳、75歳、80歳で3度のエベレスト登頂を果たした現役の大冒険家です。標高8000mでは地上の気圧の三分の一になり、寒さがなくても、普通の人なら1分後には気絶し、5分後には死んでしまうそうです。そんなところになぜ登るのか。雄一郎氏はあるインタビューで次のように語っています。
「生きて帰るために登る。そのためには命がけの努力が必要になるし、人間の限界が試される。それだけではなく、山に登るというのは違った意味で人生を豊かにしてくれる。」
登山の「と」の字も知らないような私には、到底想像もつかない境地にいらっしゃるのでしょうが、「人生を豊かにしてくれる」というのはどういうことなのか、もう少し具体的に知りたいと思い、著書である「やめる勇気、やり遂げる心」(PHP研究所、2016年)を読みました。
この本は、これまでの冒険を通して雄一郎氏が得てきた生き方や考え方など、非常に共感できる内容ばかりです。仕事や人間関係、子育て、健康などに今悩んでいる方に、ちょっとしたヒントを与えてくれる一冊です。
そのまえがきを一部ご紹介します。
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『私は自他ともに認めるあきらめの悪い人間だ。
子どもたちも「どうして父は、大変な状況になってもあきらめようとしないんだろう」と首をかしげる。
しかし、そこには理由がある。それは生きがいとなる「夢」、そう目標があるからだ。
(中略)
夢は人生を豊かに輝かせる。地平線のその向こうに何があるのだろうか…?
人間は可能性を信じて進化してきた。可能性の扉を開くことができるなら、それは何よりも心ときめく宝物になる。だから、誰もやらなかったチャレンジを続けてきた。
(中略)
何よりも大事なことは、あきらめずに一歩ずつやり遂げるという心だ。目標にたどり着く道のりはさまざまであっても、一歩ずつ踏み出していけば、必ずいつかは夢の山頂に立つことができる。人生はそう信じて生きていくほうがよっぽど楽しいのだから、そうポジティブに生きてほしいと思い、この本を書いた。』
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受験も一つの大きな山を登るようなものだと思います。紆余曲折、寄り道をしながら、それでも毎日のように塾に通っている子どもたちは、着実に一歩ずつ山を登っています。来春受験する皆さんはあともう少しです。保護者の皆様もあきらめずに、夢の実現、目標の達成を信じて、応援していただきたいと思います。