西郡コラム 『持って生まれた能力を伸ばすため』

『持って生まれた能力を伸ばすため』 2019年10月

 注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子を持つある保護者は、子どもがADHDと診断されて、むしろ気持ちが楽になったという。授業中に立ち歩いてしまったり、いつも忘れ物をしてしまったりと、我が子が「よその子と違う」ことにずっと苛立ち、悩んだ。しかし、ADHDという診断で「この子はそういう子なんだ」と受け止めることができ、それ以来、他の子と比べることがなくなった。
 「他の子よりできるかできないか」を基準にして子どもを見ると、親は比較という基準に束縛され、視野が狭くなり、苦しむ。運動が苦手なのであれば、「そういう子なんだ」と、まず認める。ダメな子でも、できない子でもない。学習とは関係がない。「そういう子」なのだと受け止めることで親の気持ちは変わる。持って生まれた能力は違う、発達にも差がある。人とは違うは、生きていけば誰でも経験知でわかってくる。所詮、人とは違う、違うものを比べても仕方がない。運動会があれば、順位ではなく、一生懸命走っている姿に目を向ける。たとえ最下位だったとしても、その子自身は去年より今年のほうが速く走れているはずだ。伸びない子はいない。なぜ運動するのか。自分の心身をつくり、鍛えるため、運動することで達成感や爽快感を得るためだ。そして、やり続ければ誰でも上手くなる。やり続けて上手くなるようにすることに学習はある。その子自身を基準にすれば、どんな子でも絶対に伸びている。その子自身の過去と比べて伸びたところを評価すれば、確かに成長している子どもの実像が見える。”勉強ができる〞、”スポーツができる〞。親は子どもが ”できる子〞であってほしいと望む。しかし、子どもは親を満足させるために存在しているわけではない。幼く見えても、一人の人間。
 子どもに何をさせるか、どう日々を過ごさせるかを親が考えるのは、子どもが自立するためである。大方の順番として、親が先に死に、子が残る。親は子どもの老後はみてやれない、子は自分自身で生きていくしかない。いずれ子ども自身が己を知り、考え、判断して生きる道を選んでいく。自分で判断して、成功と失敗を重ね経験を積み、自分が生きていく道を探していく。子どもに「あなたはどう思う?」「あなたはどうしたい?」と問うことが、自分自身で考える習慣を身につける。子どもは持って生まれた能力を伸ばしていくために学び、持って生まれた能力を生きる力としていく。子ども自身が感じたことや、思ったことを素直に出せる環境が子どもを伸ばすことにつながる。
 当然、私たちがやることは、その子の持って生まれた能力を伸ばすことだ。音読、サボテン、あさがお、なぞぺー、そして受験学習、すべての学習は、その子の持って生まれた能力を伸ばして、生きる力としていくためにある。

西郡学習道場代表 西郡文啓