『GIGAスクール構想の前倒しに思うこと』 2020年7月
最近の政府の方針や感染者数の推移をみる限り、新型コロナウィルスを封じ込めるには相当な時間がかかるだろうと多くの方は感じていると思います。このコロナとどう付き合っていくのか、新しい生活様式をどう整えていくのか、という長期的な視点で考えていかなければ、日々の報道に振り回され、ストレスばかりを抱えこんでしまいます。これからは、一人ひとりの感染対策が最優先のモラルとなり、それが十分ではない人や場所には近づかないという大原則の中で、社会活動を続けていくことになります。大切なことは、それでも感染はだれにでも起こりうることですし、自分も含めてだれかを責めないということです。事実をもとに正しく恐れ、お互いをいたわる気持ちを持つことが、今求められています。
今回のことで、オンライン授業やテレワークは特別なことではなくなりました。GIGAスクール構想(生徒用端末と、高速大容量の通信ネットワークを全国の学校現場で一体的に整備すること。GIGAとはGlobal and Innovation Gateway for Allの略)が前倒しになり、2020年度内にすべての公立校の児童・生徒に一人一台の端末が配付される予定です。当初のGIGAスクール構想は学校内でのICTの活用とその推進を目的としていました。しかし、今回のコロナでの休校によって、自宅と学校を結ぶ遠隔学習支援のための予算が追加されました。今後は、自宅でiPadなどを使って授業を受けることもできますから、台風や大雨、インフルエンザでの学校閉鎖など、万が一の休校時にも対応できるようになります。
しかし、来年度からそうした対応が始められるかどうかはまだわかりません。ツールや教材が用意できても、それを使いこなせる人材の育成が必要です。若手の先生には、以前からICTの活用に意欲的に取り組んでいる方々はいらっしゃいます。しかし休校期間の公立校のオンライン授業の実施率が5%にとどまったことを考えると、教育委員会・学校長の意識改革や教員の評価システムの変更など、それなりの時間が必要になると思います。
このGIGAスクール構想で期待できることは、授業におけるメリットだけではありません。先生の仕事はブラックの象徴とされてきたことはご存じのとおりです。例えば、40人近い集団授業の中で、子どもたち一人ひとりの理解度を把握することは不可能ですから、熱心な先生ほど、事務作業に忙殺されながらも、自宅にテストや宿題を持ち帰り、夜中まで採点やチェックすることが日常になっていました。さらに、今回のコロナ禍での学校再開によって、感染対策という新たな仕事が増え、多くの先生の悲痛な声がネット上に溢れています。GIGAスクール構想によって、校内LANによる校務管理や成績管理のシステムが構築されれば、負担となっていた様々な事務作業が効率化される可能性があります。また、授業においても、AIなどによる個別最適化学習、つまり一人ひとりの理解度によって、異なる宿題を出したり、同じクラスの中でも子どもによっては違う単元を学習したりすることができるようになります。そうなれば先生の役割は大きく変わります。教えること以上に、子どもたちの進捗を管理したり、勉強のやり方を教えたり、ときには励ましたりといったサポート役としての仕事が中心になるのです。いかによい授業をするかを目標としてきた先生たちにとっては、相当な変化が求められるわけです。
もともと教師の役割は、一方的に知識や技術を教え込むことではなく、子どもたちの興味・関心を引き出し、自ら学ぶことの楽しさを伝え、そして見守ることです。コロナによってもたらされた前例なし・正解なしの問いは、今後も起こりうる自然災害や社会問題に、粘り強く挑戦し続け、自らの力で未来を切り開いていく人間を育てていかなければならないことを示唆しているようにも思えます。
スクールFCでは、刻々と変わるコロナの状況を注視しながら、お預かりしている子どもたちにとっての最善の選択は何かを、日々議論し続けています。社会情勢の変化によっても、今後の対応を柔軟に変更していく考えです。引き続き、皆様のご理解とご支援をいただきながら、子どもたちを次の輝くステージへとしっかりと導いてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
スクールFC代表 松島伸浩