『振り返る』 2020年9月
新型コロナのある生活が日常となっている。学習道場ではオンラインでの授業、自学を継続している。オンラインの利点を最大限に活かした授業を求めていくと同時に、オンラインでは、自宅が即同じ空間で共に学ぶことのできる自学室になる。自学ができるようになるために、授業を受けている彼ら。学年が上がるほど、自学の重要性は増す。試行錯誤を繰り返して自分の自学をつくっていく。
本科コース(小四~六)では、週二回平日に授業を受け、残りの三日はオンラインの自学室に参加できる。授業の日も、自学の日もHR(ホームルーム)があり、私の話から始まる。
オンラインが始まった当初は、訓話の時間にしていたが、私が諭す一方通行の訓話ではただ聞いているだけの時間。子どもたち自身が気づかないと、考える力は身につかない。最近では、こちらから問いかけるようにしている。「新型コロナに罹らないようにするには、どうしたらいい?」「オンラインの授業を上手くやるには、どうすればいい?」「どうして、サボテン(計算)と音読が日課になっていると思う?」…正解は求めない。こちらからも言わない。彼らが考える、短くも大切な時間。“なぜ“という思考回路が根付いていけばいい。
問いかけた後は、音読をする。母音法、アイウエオの口の形をつくり「あいうえお、いうえおか…」のはっきりとした音を出す。母音の口の形を意識して、早口言葉、ことわざをスピードアップして音読する。俳句を一句発音して、その場で覚える。最後に、四百字程度の文章を一分間音読する。文章は、説明文や物語文から抜粋。一週間の平日五日間、同じ文章を音読する。音読スラスラは、読解の基本。そして、集中力を鍛える。毎日が肝要、誰でも継続すれば上手くなる。積み重ねていくと上手くなっている自分を意識するようになる。だから、自己肯定感が芽生える。「やれば、何とかなるんじゃないか」これが、生きる力となる。
自学室の退出は自由。退出する際に、今日の一日を振り返る。道場では、学習日誌をつけることを日課にしている。日誌に記述したことを話してもいい、話してから日誌に書いてもいい。今日、何を学んだか、感じたか、考えたか。一日を言語化して振り返る。
より多くの生徒の振り返りを私は聞くようにしている。「あなたたちの今日学んだことをチェックや管理するために、私は聞いているのではありません。私に話すことで、今日一日を思い浮かべる時間を取ってほしい。何を学び、考え、感じたか。例えば、学校で習った漢字が頭の中に蘇りますか。あなたの頭の中に漢字が浮かんでくるだけでも定着は違います。今日一日を振り返り、そして言葉にして、私に伝えてください」と。
「学校の一時間目は、何だったかな…」とすっかり忘れている子もいる。すっかり忘れる子は、自分はすっかり忘れるところがあることをわかればいい。目の前の、今への興味関心や集中が強いから、過去はすぐ消え去る。「体育の時間、上着を忘れて見学だった」。失敗をさらけ出せる、もっとも印象に残ったことを素直に話す女子もいる。最も印象に残ったことを素直に話しただけ。彼女は集中して自学に取り組んでいた。
話しだしに、“なんか“をつけて話そうとする子は、なかなか次の言葉がでてこない。振り返った映像は頭に浮かぶが、言葉に置き換えられない、もどかしさを知る。浮かぶ映像は強烈であり、クリアだが、今使える語彙がない。振り返り、頭の中でしっかりと蘇らせようとすることで、今は十分。継続していけば、徐々に言葉を獲得していける。浮かべる想像力、反省的な思考が芽生えていけばいい。スラスラと今日学んだことを言える子もいる。スラスラと言葉がでた子は、頭脳の明晰さを感じさせるが、イメージを言葉にしやすいところに収めてしまうと、想像がしぼむ。
振り返りは、一人ひとり違う。今の子どもの発達段階を示している。優劣でない。だから、容易に褒めないようにしている。私に評価してほしくて、いいところを見せよう、褒められようは、いらない。一瞬でもいいから、過ぎ去る今日一日を振り返る中で、浮かんでくるものを大切にしてほしい。
振り返ること。そして、それを言葉にして相手に伝えることが、彼らの成長に大きく貢献すると確信している。
西郡学習道場代表 西郡文啓