『頭の中を覗き込む』2021年10月
花まる学習会では、毎週一枚作文を書きます。毎回の授業で書くので、「今日は何も書くことがない!」と言う子も当然出てきます。作文に苦手意識のある子は、用紙を前に思考回路が停止してしまっていることも。原因は、”たくさん書かなければいけない“”良く書かなければいけない“”何か特別なことを書かなければいけない“など「こうしなければいけない!」と思っているから。そう思うと途端に鉛筆は止まります。
私は教室で、「急にたくさん書こうとしなくていいよ。先生はみんながいつも何を考えてどんなふうに感じているかわかりません。頭をパカっと開けて『ふむふむ。こんなことを思っているんだな』と覗くこともできない!みんなも先生が何を考えているかはわからないでしょ?本当に小さな気づきでいいんだよ」と子どもたちに話をしています。
教室で見た素敵な作文を紹介します。
「おねえちゃんいじわるしててもじつはすきだよ。これからもいっぱいあそんでね。」
短い作文ですが、この子のお姉ちゃんに対するあたたかな思いが伝わってきて思わず笑顔になりました。
狙った言葉ではなく、純粋でありのままの言葉ほど人は心を揺さぶられるものです。
毎日を懸命に過ごしている子どもたちです。良いことばかりではないでしょう。悲しかったり、悔しかったり、腹立たしいことも起こります。子どもの毎日は大小さまざまな発見の連続。大人もアンテナを張っていればさまざま気づくことはありますが、子どものそれには到底及ばないでしょう。だからこそ、その尊い気づきを自分の言葉、自分の気持ちを素直に書けるようになってほしいと声をかけています。
語彙が少ないがゆえに、自分の思いを表現しきれず、もどかしく感じるかもしれません。しかし、説明できない思いがあることを知るのも大切です。語彙が増えて「いまの自分の気持ちはこうやって表現できるのか!」とまた新たな発見をし、知らないことをどんどん知る過程を楽しむこともできます。
「帰り道の花がきれいだった」
「おなかがいたかった」
「明日の休み時間が楽しみ」
それでいいのです。言ってしまえば言葉はツールにすぎません。自分が感じたこと、そうなんだ!と腑に落ちたことでなければ伝わりません。どんな思いを言葉に乗せるか。子どものいまだからこそ感じることのできる思いがあります。その思いを自分の言葉で素直に書いてほしいのです。将来、振り返ったときに自分の軌跡は時代を超えて自分を救ってくれるでしょう。ただ目の前のことではなく、その感動を教室に通っている子どもたちに感じてもらいたい。そう願っています。
花まる学習会 濱本和美