Rinコラム 『あなたはどうしたい?』

『あなたはどうしたい?』2022年3月

 保育園や公立小学校などで、定期的に出張授業をしています。ありのままの自分を表現する、創作や作品観賞会を通したARTの授業は、その子らしさを認めていく保育や、多様性を認める心を育てる学級運営を改めて考えるきっかけになるからです。そしてそういう大人の姿勢は、子どもたちに変化をもたらしていきます。なぜなら、自分で考え、自分で決めることが当たり前にできると、彼らは自分に自信を持ち、他者に対して思いやりの心を持って接していくからです。人は、自分を丸ごと尊重してもらえていると、自分の人生を生きていくのだなと思います。

 「その子が本来持っている、よい芽を伸ばす」視点を、保育士さんや担任の先生方と共有していくことで、クラスがどんどん変わっていく。そんななかで、いつも私が子どもたちと接するときに当たり前にしていることですが、毎回驚きを持たれることについてお話しします。

 「3歳児にも敬語を使うのですね?」「『~してもいいですか?』と聞かれますね」「答えを言うのではなくて、『どうしたいですか』と聞かれていましたね」
その場にいた大人たちからよく寄せられる感想です。
 花まるでは子どもたちに、「~しなさい」というような言い方をすることはありません。彼らは、体は小さいですが、感情と意思を持った一個の人間です。できないことはあるかもしれませんが、劣った存在ではなく、対等な人間なのです。大人相手に伝えるのと同じように、「~してもらってもいいですか?」または、「(先生が)~してもいいですか?」と聞くのです。命令ではなく、お願い。仕事で誰かに何かを頼むときと、同じです。するかしないかは、相手にゆだねて、決める余地は残す。彼らが「いいよ!」と言ってくれたなら、「ありがとう」と伝えます。
 このマインドは、彼らが何か困ったことがあったときにも、「あなたはどうしたいんですか?」と、まずは自分の気持ちを表現する機会を与えることにもつながってきます。相手の人格を尊重する。そうやって、小さなことですが毎回の会話の積み重ねで、子どもたちはあなたを、対等に話ができる、信頼のおける人だと認識します。
 彼らは、信頼のおける大人には、自分もその信頼に足る自分であろうとふるまうものです。子どもの人格を見つめ、それをちゃんと知ろうとすること。子どもを、子ども扱いしないこと。仕事相手や大切な友人と接するのと同じように、子どもにも対等に接すること。この姿勢を忘れなければ、彼らとのコミュニケーションはうまくいきます。それはつまり私たちが、子どもたちの信頼に足る大人になる、ということなのです。

 ある保育園での授業にて。「切手を貼って送ることができる作品」を制作したあと、郵便の仕組みについてお話ししていたら、最後の鑑賞会(子どもたちと作品についての意見をことばにして伝え合う時間)で、ある子が「川に流したら、届くんだね」とまじめな顔で質問してきました。「う~ん。確かにこの作品は水に浮かぶから、川や海に流したら、きっといつか誰かには届くと思うんだけれど、住所と切手がなかったら、届けたい相手には届かないと思うんだ」と答えました。このとき、その場にいた大人たちの間では笑いが沸き起こったのですが、私は、ちゃかすのではなく、まじめさにはまじめさで応えることが、あのときの彼女の問いへの真摯な対応だったと信じています。本当に、かわいくて素敵なコメントでしたけれど。
 
井岡 由実(Rin)