Rinコラム 『より立派に―過去の自分と比べて』

『より立派に―過去の自分と比べて』2022年5月

逆上がり・漢字を覚える・計算の力・ピアノや歌、水泳やサッカーの練習…私たちが、何かの力を獲得しようとしたときに、「正しい練習の仕方」というものがあるとしたら、それはいったい何でしょう?

楽しんでやる?レディネス(※)が整うのを待つ?ほめて伸ばす?まずはマナーから?
正しい練習の仕方を、ひとつあげるならば、「できることを、確実にすること」でしょう。何かができるようになるためには、より多くの訓練、つまり繰り返す、ということは、とても大切です。しかし、ただたくさんやればいい、ということではありません。できることを繰り返すこと。上手なやり方を、たくさんするということです。

失敗を繰り返すのは、実は失敗をする練習をしているのと同じこと。肝心なときに、失敗をした体験が出てきます。1ランク落として練習、を繰り返すと、失敗の体験よりも成功体験の方が多いので、本番で150パーセントのことをやらせても大丈夫。失敗をしないのです。

跳び箱だったら、四段を飛べたら何度も四段を跳ぶ。もっと上手に。よりへっちゃらに。さらに美しく。「上手さ、立派さ」を追求していく。どんどん得意になっていく。そうするとあるところで、六段を跳ぶ力がついてくる。そのときに、跳ぶのです。歌も同じです。上手に、楽しく。心を込めて、正しい音程で。「立派さ」を求めるほうが、早く力を伸ばすことにつながるのです。

人は、一瞬にして前進します。さっきわからなかったことが、いまわかるようになるもの。だからこそ、「より立派に」を意識してみてください(「できたね、ハイじゃあ次はこれできる?」というようなわんこそば練習ではなく)。

脳は、「楽しい」と思いながら繰り返したことだけが、伸びてきます。そして、大人になっていく過程では、どんな技術の習得も、自分の意思や自分の努力でやっていくものです。
「すごいね、さっきよりもうまく書けているよ」
「昨日よりも立派にできているね」
そうやって声をかけてあげることで、いつも自分が過去よりも成長していると感じられ、他人との比較ではない、自分の中からあふれ出る自信を、内面に築いていくことができるのです。

「もっと上手になりたい」
「次はここをさらにできるようになりたい」
子どもたちがもともと持っている「伸びたい」「伸びよう」という芽を、その意欲を、つみ取らず、遮らずに伸ばしてあげられるように。

ご家庭でもぜひ「より立派に」にフォーカスした言葉かけを意識してみてくださいね。子どもたちが、ちょっとやそっとではくじけない内なる自信を持ち、やりたいことをやり抜ける、本当の意味での自由を獲得した人生を送れますように。

井岡 由実(Rin)

※レディネス…心理学用語で、何かを習得・学習する際、そのことに必要な条件(内的準備期間を経て、前提となる知識や経験などの心身の成熟度)が整って、困難なく学習できる状態になっていることを指す。