松島コラム 『教科書をおろそかにしない』

『教科書をおろそかにしない』 2023年5月

 おかげさまで、2017年に上梓した『算数嫌いな子が好きになる本 小学校6年分のつまずきと教え方がわかる』(カンゼン)の増補改訂版が4月4日に出版されました。この本では、小学校6年間で習う算数のなかで「つまずきやすい問題とその間違い方を例示し、それに対してどう教えたらいいのか」を解説しています。したがって、扱っている問題自体は教科書に出てくるような基本的な問題ばかりで、普通に考えたら間違えるはずがないと思われるものです。しかし、算数は積み上げの教科と言われていますから、ある学年の一つの単元が理解できないと、上位学年で途端にわからなくなってしまう可能性があります。気づかないうちになんとなく算数が苦手になり、そのまま中学に進むと数学で苦労します。たとえば、つまずきやすい代表格である「速さ」の単元は、現行の学習指導要領では5年生で学びます。「速さ」は中学受験生でも苦手にする子が多い単元です。以前の学習指導要領では6年生で学習していたのですが、5年生に移行したことによって、分数を使った問題を扱わなくなり、やや平易になりました。しかし中学ではそれらを理解していることを前提に、時間や道のりを分数に変換して解く問題がいきなり登場します。中学の数学でつまずかないためにも、小学校時代に基本的な訓練を十分にしておく必要があるのです。
 今年の中学入試では、学校の教科書をきちんと理解していないと解けない問題が出題されました。中学1年生から小学6年生に移行してきた「統計」です。拙著の増補改訂版でも追加した単元ですが、これまでの中学受験用のテキストでは扱っていませんでした。
 例として、今年の早稲田実業中等部の入試問題をご覧ください。

下の図は、20人の児童がバスケットボールでそれぞれ10回ずつシュートをして、ゴールに入った回数をドットプロットにまとめたものです。このとき、平均値、最頻(ひん)値、中央値の3つのうち、一番小さい値となるものをひとつ選び、〇で囲みなさい。また、その値を答えなさい。

 中央値、最頻値の意味をきちんと理解していなかった受験生は戸惑ったと思いますが、学校の授業をしっかり聞いていれば得点できる問題です。逆に言えば、学校の教科書や授業をおろそかにしていた受験生は、みんなができる問題で差をつけられてしまった可能性があるのです。ちなみに、この問題の答えは、平均値は3.4、中央値は3.5、最頻値は4ですから、平均値の3.4が正解になります。今年は世田谷学園や頌栄女子学院などで、統計に関する問題が出題されています。資料や表、グラフを読み取る力や活用力を試す問題は、算数のみならずほかの教科でも増加傾向にありますから、今後も統計に関する問題は押さえておく必要があるでしょう。なお、受験用のテキストでも「統計」の単元に対応していくという情報を得ていますので、ご安心ください。
 過去の中学入試でも、教科書の内容を理解しているかどうかを問う問題がよく出題されています。中学入試では学校の教科書よりも難しい問題が出るというのは事実ですが、それらも基本がわかっていての話です。中学受験、高校受験にかかわらず、学校の勉強をおろそかにしないということが大切なのです。

スクールFC代表 松島伸浩