『見ていてほしい――主体性を引き出すコツ②』2023年10月
失敗ができると思える場所で、人はもっとも挑戦ができます。
人とは違う意見を持っても、自分らしい表現を追求したとしても、作者の思いと鑑賞者の感じ方が異なっていたとしても、どんな意見や感情もすべて等しく敬意を持って扱ってもらえる、という体験をした子どもたちは、「人と違うこと」を当たり前だと感じはじめます。
みんなが同じである必要はなく、その人らしさを尊重してもらえる世界では、他者との差異を、自分にしかないオリジナリティだと、大切に思うことができるのでしょう。
そういう意味で、彼らが考えたこと、思ったことを素直に出せる空間というのが、最もクリエイティブに持っている能力を伸ばすことができる環境といえます。
「こころを解放させる」と言ったりもしますが、どんなチャレンジも受け止められるという場で、何が良いと思うのか、あなたはどう感じるのか、とことん自分と向き合い、自分の頭で考えることを促し続ける場では、子どもたちは自分を信じて、失敗を恐れず、次々と壁を突破していきます。
ある5歳の子が、作品を見て「ここがこわれてるけど、美しいからいいんだよね」と言いました。自分が思った「美しい」という気持ちを、大切にしていいと認められている環境で、その子は自分の価値観に自信を持って、言葉にすることができたのでしょう。もしも保証されていなかったら、それは失敗だと決めつけるほかないかもしれません。
美しさは、人それぞれ違うし、それでいい。
たとえば石ころを拾ってきたときに「汚いものを拾わないで」と声をかけたとしたら、ほかの石と「何かが違う」と感じて手にしたその石が、簡単に汚いものに変わってしまう。そうするとその子は自分の感覚に目をつむるようになります。大人の「こういうものだ」は、ときに、その人にしかない感受性にふたをすることがあるのです。
生活のなかで、子どもたちが何か意見を言うときには「あなたはこう思うんだね」「お母さん/お父さんはこう思ったよ」というように、大人自身の感じた気持ちも、同時に伝えると良いでしょう。人にはそれぞれ感情や思いがあり、どれも大事にしたいというその“意識”が、子どもたちの心に届くはずです。
先日の保育園でのAtelier for KIDsクラス。「今日はRin先生の言葉に注目してみました。いつものように肯定する言葉、子どもを見る表情。『自分の気持ちを優先していい』『失敗はないよね』いつもワークのあとは、ほのぼのした雰囲気に包まれます。それは、不安なく自分らしく過ごせ、認められ、居場所があるからだと思いました」
園長先生が振り返りで気づかれたことは、私たちが自由に、自分らしさを追求していくときに大切なことを、捉えていました。
井岡 由実(Rin)