『表彰状』2024年1月
これらは昨年一年間で起こったことです。
ケース1
この欄で11月に、「小3まで保護者同伴でないと教室に入れなかったMちゃん」のお母さまと20年の年月を経てお会いできたという話を書きました。多くの反響もいただいたのですが、年末にとうとうMちゃん自身と会うことができました。授業後、お迎えに来たMちゃん。スラッと背も伸びて子どもの頃の面影は残っていますが、子を持った親の覚悟に満ちたたくましい表情です。「元気そうだね。お母さんとして頑張ってるか?」と聞くと「はい!」と元気な答え。短い時間でしたが話をしたり写真を撮ったりして、幸せな時間でした。そして話の終わり頃に彼女はこう語ったのです。「私たち本当は、東京の◯◯区にいたんですよ。でもこの子も高濱先生のクラスに入れたいなと思って、こっちに引っ越してきたんです」と。そして年中の男の子の頭を撫でながら「FCまで行こうね」と言うのでした。
ケース2
5月の連休明けのことです。31年前の最初の開催幼稚園で、一期生として参加してくれた当時小2だった女の子Sちゃん。この世代とともに花まるの授業が始まったし、サマースクールも始まったし、スクールFCも立ち上げたし、スーパー算数の授業も講演会も始めることになった、年の離れた戦友とすら言える子です。彼女の課題をお父さまが本当に頑張って克服したという初期講演会のエピソードも提供してくれた女の子なのですが、年賀状のやり取りだけが延々と続いている関係でした。いまはSNSでもすぐにつながることができて、昼飯でも食おうということになりました。場所はデパートの最上階にあるファミリーレストラン。食事をしながら、私が知らない高校以降の波乱の人生物語や、いまの夫がいかに良い人かという自慢話などを聞きました。いわゆる優等生でしたから、人生いろいろあるんだなということに驚きもあったし、素晴らしいパートナーと出会えて本当に良かったなと嬉しくもなりました。かなり話し込んだ最後には、赤ちゃんを抱いた夫氏がお迎えのために店に入ってきました。挨拶し、さあ帰ろうとしたときです。私が伝票を取ろうとすると、Sちゃんがサッと奪い取りこう言うのでした。「今日は、メシが食える大人になったこと先生に見てもらいたくて来ていただいたんだからダメです。私に出させてください」と。
ケース3
年末、講演会終了後、別の県の午後講演に移動するため急いで会場を出ようとしたときでした。社員の一人が、「いま保護者の方から『これを高濱さんに』ということでいただきました」と一通の手紙を渡してくれました。それは、お礼の手紙でした。現在中1の娘さんが、大阪で相澤に愛情深く育てていただいたことから始まり、清岡の長きにわたる母子への精神的フォローや激励のおかげで憧れの中高一貫校に合格し、憧れの合唱部に入り、いま顧問の先生や先輩方が大好きで目を輝かせて部活動に励んでいること、そしてこの秋のコンクールで文部科学大臣賞をいただいたこと、根性のある努力できる娘に育ったことなどが記されていました。そして、「個性豊かな下の息子二人も、よろしくお願いします」とあり、「高濱先生へ、心からの感謝を込めて」と結ばれていました。
ケース4
サマースクールの修学旅行で4日間をともにした6年生のKちゃんから、夏明けに悩み相談の手紙をもらいました。なかなか時間を取れなかったのですが、教室長の小島の熱烈な取り持ちもあり、11月に御茶ノ水で再会できました。一度寝泊まりのある旅をともにすると、身内という感覚が高まります。答えがほしいのではなく聴いてほしいんだなとわかる相談を受けている時間は、思春期の娘が心を打ち明けてくれたような感覚で、気持ちをゆだねられている心地よさがありました。Kちゃんはスッキリした顔で帰ったのですが、そのときお母さまから渡された封筒には、Kちゃんが学校で書いたという短い作文のコピーが同封されていました。本人の了解を得て掲載します。
題名「習い事の先生」。「私がいろいろなことで悩んでいたとき、すべての不安をふきとばしてくれた、あこがれの先生。その先生はいつも楽しそうで、一緒にいると元気をもらえます。遊ぶときは思いっきり子どもたちと遊び、生徒が間違えた方向に行こうとしたら見下すことなく真剣に怒ってくれます。私は先生のひいたギターで歌を歌ったことが印象的です。また、生きる希望を与えてくれました。また会えますように……。」
これら4つのケースのようなことが一つ起きると、何か「人生の表彰状」を一葉いただいたような気持ちになります。似た例として、講演会の感想文も大好きで、読んでいると感動して泣かされることも度々あるのですが、それはどちらかというと舞台芸人として認められたような感覚です。しかし上記のようなケースでは、教育者として教育機関として本業そのものを神様に「それでいい」と肯定されたような感じがするのです。
ちなみに、こういう事例のほとんどは、昔から女子。男子はもっとサバサバした関係で、こういう形でお手紙などで気持ちを示してくれるのは女の子とお母さま方ばかりです。振り返れば、花まるは無数の女性陣に支えられてここまで存続できたなとも感じます。
新しい年を迎えました。このような「深い心のつながり」を感じられる教育現場に立っていられることに感謝し、また5年後、10年後にこのような「表彰状」を一通でも多くいただけるように、社員一丸となって、今年も授業や雪国スクール、サマースクールで子どもたちと真剣に向かい合っていきたいと思います。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。
花まる学習会代表 高濱正伸