『自分らしく生きる』 2024年4月
先日取材をうけた文化放送のラジオ番組『知っていますか? ロービジョン~0と1の間 Vol.4』※が放送されました。講演会などではお話をしていますが、私は先天性のロービジョンで障がい者認定を受けています。一般的にロービジョンというのは、失明はしていないが、視覚に障がいを受け「見えにくい」「まぶしい」「見える範囲が狭くて歩きにくい」など日常生活に支障がある状態、また視覚情報は多少使えるが、矯正してもあまり視力が出ない状態を指します。多くの方は視覚障がい者というと全盲の方をイメージされると思いますが、このロービジョンにあたる方は、全盲の方の約8倍、145万人いると言われています。ロービジョンは、見た目にはわかりづらいため、社会生活でのサポートを受けられない、または自分からは周囲に伝えづらく理解を得られていないという方も少なくありません。認知されていないことによる日常的なトラブルもあります。たとえば白杖をもっていないロービジョンの方は、混雑する駅などでは突然人と衝突して、相手に罵声を浴びせられることがあります。歩きスマホの方は恐怖でしかありません。白杖を持っている方がスマホをいじっていると「嘘つき」呼ばわりされることもあると聞きます。いまや音声認識や拡大機能が進化したスマホは、視覚障がい者にとっては必要不可欠なツールです。目が見えないのにスマホを使っているのはおかしいという誤解です。最近私もラッシュ時の駅構内では前後左右から走ってくる方を避けられなくなり、シンボルケーンという視覚障がい者であることを知らせるための白杖を購入しました。しかし混雑する場所ほど人の迷惑になるのではないかと考えてしまい、使うことをためらってしまいます。当事者になってみないとわからない心の壁はあるものです。
今回の番組のテーマは「働く」でした。障がい者雇用についてはいろいろな課題があります。たとえば仕事に就いてから途中で何らかの原因によって視覚障がい者になった方はいままで通りの仕事ができなくなり、差別や冷遇を受けて仕事をやめざるをえなくなることもあります。点字を習った経験もありませんから、その後は引きこもりがちになり、社会から孤立してしまうケースもあります。障がい者認定を受けていない、または受けられない場合もあり、視力が足りないため運転免許が取れず、公共交通機関の補助も受けられないという制度の狭間に取り残されてしまっている方もいます。
そういうなかでも私は奇跡的に左眼の中心視野が残っていたために、周りの方も気づかないほど日常生活や仕事が普通にできています。生まれつきであること、ロービジョンの中でも特別な状況であることは、ロービジョンの現状を多くの方に広めていく役割が、私にはあるのではないかと強く感じています。個人の小さな活動ですが、東京パラリンピックの聖火ランナーとして走ったのも、今回のラジオ出演もそれが動機です。
いまは亡き両親は、目が悪いことを理由に特別扱いすることもなく、普通の子として私を育ててくれました。だれかと比べたりすることも一切ありませんでした。障がいを持って生まれてきたことにずっと心を痛めていたと思いますが、それもすべて受け入れて見守ってくれました。おかげで私自身も目が悪いことを言い訳にすることもなく、ハンデと思うこともありませんでした。むしろそれが私の個性だと大人になって気づきました。どんなときでも仕事ができるだけで幸せと思えるのも両親のおかげだと感謝しています。
多かれ少なかれ、みんな何らかのコンプレックスを持っています。しかし、それ以上にだれもが魅力的な部分を持っていると思うのです。子どもとか大人とか、障がい者とか健常者とかは関係ありません。ところが、周りと比較したり評価を気にしたりして、自分自身が持っている魅力に気づかずに、自分だけが不幸だと決めつけてしまう人がいます。きりのない比較や評価にとらわれて生きていくよりも、自分が置かれている現状の中でできることを一生懸命にやっていくこと。そこで自分を磨き続けること。そこに自信を持って生きていくこと。それこそが自分らしく生きるということだと思うのです。その自信の源になるのが親からの愛情です。
番組のパーソナリティであり、孤児であったサヘル・ローズさんが、養母からもらった言葉として次のようなことを言っていました。
「血がつながっていなくても愛してくれる人がいる。血のつながりじゃない。こんなに愛してくれるお母さんはほかにいない。そう言ってあなたが自信を持てばそれだけでいい。周りがあなたを判断するわけじゃない」
子どもにとって愛してくれる人の存在が、自信を持って生きていくうえでの大きな支えになると思います。
スクールFC代表 松島伸浩
※この番組のアーカイブはこちらから聴けます。高濱も出演しています。