松島コラム 『大人の自由研究』

『大人の自由研究』 2024年7・8月

 日常の何気なく見ているもののなかにも、「なぜ? どうして?」と思うことはたくさんあります。夏休みと言えば「自由研究」ということで、今回は「大人の自由研究」にお付き合いください。
 スパークリングワインがお好きな方もいると思いますが、子どもに「どうしてあんなにたくさん泡が出るの?」と聞かれたら、みなさんはどのように答えますか。たとえば「炭酸ガス(二酸化炭素)をあとからワインに入れているんだよ。コーラと同じだよ」という答えも間違いではありません。しかし多くのスパークリングワインはそういう造り方をしていません。
 そもそもアルコールはブドウからどのように造られるのでしょうか。
 アルコール発酵のメカニズムを化学式で表すと、「C6H12O6→2C2H5OH+2CO2」となります。「C6H12O6」をどこかで見たことがあると思った方はさすがです。中学の理科か高校の生物の教科書で「6CO2(二酸化炭素)+12H2O(水)→C6H12O6(グルコース)+6H2O(水)+6O2(酸素)」という光合成の化学式に出てきます。「C6H12O6」はグルコース、つまりブドウ糖です。アルコール発酵の化学式は、ブドウ糖が酵母の働きによって、アルコールと二酸化炭素に転化することを表しています。そして、この二酸化炭素を閉じ込めたものが、スパークリングワインの泡となるわけです。ビールの泡も、同じアルコール発酵によって生まれるものです。この酵母によるアルコール発酵のメカニズムを解明したのが、フランスの細菌学者ルイ・パストゥールで、 化学式を示したのはジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックという化学者です。アルコール度数のことを「ゲイ=リュサック度数」と呼ぶ国もあるそうです。
 ブドウ栽培には、「熱、日照、水、二酸化炭素、栄養分」が必要だと言われています。二酸化炭素と水、そして日照つまり太陽光が必要な理由は、まさに光合成を促し、ブドウ糖をブドウの実に蓄えるためです。ただし、「太陽の光をたくさん受ければいい、水や栄養分がたくさんあればいい」というわけではありません。太陽があたりすぎると、ブドウの果皮が日焼けをしてしまい、果皮から苦味が出てしまうことがあります。また水、つまり雨が多い地域だと湿気が多くなり、ブドウが菌類病にかかってしまうことがあります。日本ではブドウ狩りに行くと、地面から高い位置に棚を作り、ブドウを垂らして栽培しているのを見かけます。一年を通して雨が多い国では、雨から守り、通気をよくして病気にかからないようにするために、こうした栽培方法をとっています。ちなみに一年を通して雨が少ないフランスなどでは、棚を作らないで栽培する方法が主流です。
 またブドウの実や種子には、糖分以外にも水分、酒石酸やリンゴ酸、タンニンなどが含まれています。暖かい地域では果実が熟すのも早いですから、糖度や風味が凝縮し、酸は減っていきます。若い実が青くて酸っぱいのは、種子が未成熟のうちに動物に捕食されてしまうのを防ぐためです。ミカンやリンゴなども同じですね。糖度が高い完熟したブドウを発酵させると、その分アルコール度も高くなります。最近は温暖化の影響でアルコール度の高いワインが増えていると聞きます。反対に冷涼な地域では、酸を保持したまま、ゆっくりと完熟させていくことで、酸と糖度のバランスがとれたすっきりとしたワインができるわけです。ただし、ブドウの品種にも、萌芽が早い・遅い、成熟が早い・遅い、病気に強い・弱いなど、いろいろな特徴があり、その地域・環境に応じた育て方をしないと、凡庸なワインができてしまいます。緯度や標高、天候や土壌という自然要因に対して、どのタイミングでどのように人間(醸造家)が介入するかによって、同じブドウ品種でもまったく違ったワインができあがるのです。人間も自然界の一部ですから、子育てにも共通するところがあるかもしれません。
 こうした日常のちょっとしたことを日ごろの勉強に結びつけて話してあげると、子どもも興味をもって聞いてくれます。「少し難しいかな?」と思うくらいのほうがいいかもしれません。

スクールFC代表 松島伸浩