『自分の力を出しきる為に・・・』2004年7月号
いつかのオリンピック女子マラソンで、優勝した選手が、ウィニングランをした後のインタビューで、「私はオリンピックで優勝することよりも、恋愛のほうが大切だ」というような主旨のことを言っていました。このことばに彼女の心理状態が集約されているように思います。つまりその心の余裕が、大舞台の前日にもぐっすり眠り、大観衆を前にして実力を出せてしまう理由だということです。
この、プレッシャーに対する強さは、どこから来るのでしょうか。
ある人は、「入試で落ちたら親にバカにされると思った。失恋した相手の子に、軽蔑されると思った。」と話しました。つまり、“○○大学に入ったあなたが好き”というウソの人間関係に縛られていたのです。彼の成育歴をたどれば、「良い成績をとるあなたを愛してる」、条件つきの愛情しか受け取ってこなかったのかもしれません。もし彼が、本当の人間関係を知っていたら、受けるプレッシャーは違っていたかもしれません。こころのふれあえる友人がいて、落ちようが受かろうが、オレとお前は友達だ、落ちたからって自分の一番大切なものを失うわけではない。どこにいたって、自分にとって大切なものが常にあるという人は、強いのだと思います。
先の、優勝したオリンピックの選手のことばですが、恋愛でそれほどふれあっているから大舞台で平然としていられたのだと思います。
偏差値が高いとか、実力があるということを人生で価値のあるもののように感じてしまいがちな世の中です。大人よりもずっと狭い世界しか知らない、柔らかい子ども達のこころの中に、世間のゆがみを受けた価値観をとりこんでしまったときのことを考えると怖くなります。持っている実力を発揮できる心理状態、精神状態というのが、社会で生きていく為には必要です。その健康なこころの余裕は、人と人との本当の心のふれあいを知っているかどうかなのだと思います。
発揮できない実力よりも、実力を出し切る能力のほうが、人生を生きる力です。子どもたちがお父さん、お母さんの宝物であるように、彼らも自分の大切な宝物をしっかり持ち、自分の力を出しきれる人になって欲しいと願います。