『個性が磨かれるには』2007年9月号
長い夏休み、みなさんはいかが過ごされたでしょうか。
サマースクール「沖縄子ども冒険島」。今年は宮古島の現地の、たくさんの方々の協力を得て、シーカヤックや釣りなど、子ども達に様々な体験をさせることができました。最も興味深かったのは、マンゴー収穫体験での農家のおじさんのお話です。
マンゴーというのは、もともとは放っておくと数十メートルにまで成長する大木になるそうです。それを、人間の収穫しやすいように高さ2メートルくらいにおさえ、多くの実をならせるために、『やさしくいじめる』。これが極意。木は、自分たちが死ぬかもしれないと感じたときに、たくさんの甘くておいしい実を実らせることができる。「やさしくいじめないと、ただのうどの大木になるからね」
そして、帰りの飛行機の中で。たまたま読んでいた河合隼雄さんと谷川俊太郎さんの対談を記した本を読んでいてある言葉に出会いました。
谷川俊太郎さんの幼少期は、母親からの有り余るほどの愛、それに危機が訪れたとき、適切な距離をとリながら的確な判断を下す父親、そして子どもの知識欲を 十分に満たす環境、とすくすくと子どもが育つのは当たり前だと思われました。河合氏のコメントはこうです。谷川さんを「しかし、人間離れをした孤独を知る人」だとした上で、「単純にすくすく育った子など、うどの大木のようなものである。すくすく育つ力が、何かとぶつかってこそ、個性が磨かれてくるのだ」 と。
ただの偶然とは思えないほど、同じテーマに同じ言葉が出てきて驚きました。
日々子どもたちを指導する中で、今甘えを許すべきではないか、それともここで自分の感情をぶつけられるように殻を破らせるべきか、今はじっと見守ることで、芽が出るのを待ってやるべきか、の、小さな判断に常に迫られます。声かけ一つとっても、彼らの遠い先の未来を常にイメージすることで、その判断に狂いがなくなるのです。厳しさは、今の子どもたちには理解できなくても、大きくなって優しさだったと振り返ってもらえればいい。「うどの大木」ではなくて、彼らが「個性が磨かれた」幸せな大人になるためには、何かにぶつかったときにこそ、私たち大人の想像力が大事になってくるのだと思います。
子どもたちの10年後20年後を見すえること。
高速道路では手元ではなく遠くを見ることで、ハンドルがぶれないのと同じです。
二学期からも、保護者の皆さんと協力しながら、子どもたちを見てまいります。よろしくお願いします。