高濱コラム 2004年12月号

秋の親子自然教室から帰って一週間後、年末恒例となったクリスマスイルミネーションの企画をご近所と話し合っていると、グラグラと大きな揺れが来ました。短時間に何度も繰り返す余震の大きさに、「これは、どこかでとんでもないことになってるぞ」と言っていたら、新潟中越地方の大惨事の様子が、刻一刻と詳しい報道として伝わって来ました。

もう10年近く、サマースクール、雪国スクール、四季の自然スクールとお世話になっている、湯沢の「おっちゃんの宿」に電話を入れても、丸二日間くらいつながらず、心配しました。結果としては、震源近辺の大きな被害状況と比べれば、ずっと軽いものですんだのですが、この間、何人もの方から「おっちゃんの所は大丈夫ですか」と、温かい問い合わせをいただきました。ありがとうございました。今年から始まった土樽山荘も含め無事です。おっちゃんは大変感謝していました。

とは言っても、記憶にあるだけでも保護者のご実家が新潟という方は何人もいますし、その中には、やはり家が半壊してしまい土砂崩れで田んぼが埋まってしまったという方もいらっしゃって、胸が痛みます。すぐに飛んで行ってのボランティアも考えたのですが、何の支援ができるかの強みを明確にしないまま心意気だけで行っても、現場では統括等で難しいものがあるようですし、自分なりに、息の長い応援をしていきたいと考えているところです。

それにしても、人知の及ばぬ天災の凄さを見せつけられると、満腹に食って、仕事に打ち込んで、お風呂に入って、ぐっすり寝られる平凡な一日のありがたみを、あらためてかみしめさせられます。たまたま我が家の真下は震源にならなかったという、偶然の上に今の平穏が成立していることに思いをいたすと、今日という時をしっかり生きねばと思わせられます。

偉そうに書きましたが、現実の時間運用は本当に下手で、ただでさえ花まるの規模が拡大している上に、社内若手からはどんどん面白い提案が出てきて、外部からも魅力的な企画の申し出が相次ぎ、かと言って現場の授業を降りたくもないので、必然的に睡眠を削ることになり、限界で働いています。

そんな中、愛知県にいらっしゃる尊敬する師からお説教のメールが来ました。添付ファイルになった「忙しいということ」と題した長い文章には、私が「この仕事は楽しい、生き甲斐だ」と思うことに時間をとられている現状を指摘し、「本当に君にしかできないこと」を厳選して行うべきで、「やりたいこと」はやってもいいが、好きでやっているんだから間違っても忙しさの口実にしてはいけないというものでした。

ちょうどその日の昼、来年度に向けた行動計画を作っていて「自分にしかできない仕事」という言葉を書き出したばかりだったので、痛いところを直撃され、参りましたの気持ちで家路につきました。夜中の2時すぎだというのにたまたま妻が起きていて、いやあ、さっきこんなメールをもらったよと報告すると、彼女は腕組みをしながら言下にこう言い放ちました。「おっしゃるとおり。忙しがってるうちは、まだ小物だね」

12年間走りぬいて来ましたが、こんな先達、こんな妻に囲まれて、よい転換点に立った気がしました。時間管理の心構えが、碁で言えば半目上がったかもしれません。

師走。みんな忙しい。忙しさ楽しみながら過ごせるといいですね。

花まる学習会代表 高濱正伸