松島コラム 『多様な社会を生きていく』

『多様な社会を生きていく』 2021年10月

 最近「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」というドラマを知りました。ロービジョン(弱視)の視覚障がい者が主人公なのですが、クスっとしたり、ウルっとしたり、キュンとなったりと、重々しくなく障がい者の世界を描いている点が本当に素晴らしい作品だと感じました。
 ロービジョンとは、一般的には、失明はしていないが視覚に障がいを受け「見えにくい」「まぶしい」「見える範囲が狭くて歩きにくい」など日常生活に支障がある状態、また視覚情報は多少使えるが、矯正してもあまり視力が出ない弱視の状態を指します。
 多くの方は視覚障がい者というと全盲の方をイメージされるかもしれませんが、このロービジョンの方は、全盲の方の8倍以上にあたる140~200万人いると言われています。ロービジョンは見た目にはわかりづらいため、社会生活でのサポートを受けられない、または自分からは周囲に伝えづらく理解を得られにくいという方も少なくありません。特に中途障がい者の方は、周りとのコミュニケーションに自信がなくなり、仕事をやめたり引きこもりがちになったりなど、孤立してしまうケースもあります。障がい者認定を受けていない、または受けられない場合もあり、視力が足りないため運転免許が取れず、公共交通機関の補助も受けられないという制度の狭間に取り残されてしまっている方もいます。
 一方、スマートフォンのアクセシビリティや文字認識ができる眼鏡など補助器具も進歩していて、日常生活や仕事の質の向上につながっています。ただそうした情報が当事者に伝わっていないことや世の中のロービジョンに対する認知が進んでいないことによって、社会に積極的に関われない方もいます。日本のIPS細胞の研究による網膜の再生医療は世界の最先端ですが、ノーマライゼーションやソーシャルインクルージョンを目指す社会づくりは、海外に比べて日本はまだまだ遅れています。ましてや日本のインクルーシブ教育については、映画「みんなの学校」の大阪市立大空小の取り組みで一時期有名になりましたが、その後広がっているようには感じられません。
 『ゆうこさんのルーペ』(合同出版)という実話をもとにした絵本があります。公園のベンチで、片目に何か丸いものをくっつけて本を広げるお姉さんがいます。「なんだろう」と子どもは気になります。「あれ、なあに?」と聞くと「見ちゃだめよ」と言うお母さんがいます。「お姉さんに(直接)聞いてみたら?」と促すお父さんもいます。大人自身が障がい者と接する経験が少ないと、どう接していいのか、子どもにも教えられないというのが実情かもしれません。その点では、前出のドラマのようなものを通じて、「点字ブロックに自転車を停めない」や「弱視の人の中にも白杖を使う人がいる」というちょっとしたことを、若者世代をはじめ多くの人に伝えていくことはとても大切なことだと思います。
 現代社会では、障がいを持つ人以外でも、自分らしく生きることに自信をもてない人、周りとの人間関係に悩んでいる人など、みんな何かしらの不安を抱えています。そして歳をとれば見えにくくなり、聞こえづらくなり、歩きにくくなるわけです。これはすべての人の問題でもあります。
 一年半以上続く自粛生活の中、10代以下の子どもたちの心の状態が心配されています。受験生は、経験したことのない「受験」というものに対して、不安や焦りからストレス過多になる時期です。明らかにイライラしている。ぼーっとしている時間が長い。頭が痛い・おなかが痛いなど頻繁に体調が悪くなる。そういうときは、ストレス解消のために親が一肌脱いであげてください。外で体を動かす。映画を観に行く。買い物に行く。おいしいご飯を食べに行く。やるべき勉強が山積みであっても、それを一時忘れて付き合ってあげてください。親のお墨付きつきで勉強から解放されれば、気持ちも落ち着き、「よし!がんばるぞ」と前向きになれると思います。
 外出中、もし何か困っているような人を見かけたら、ぜひ手を差し伸べてください。(もちろん引き続き感染対策はしっかりとお願いいたします。)ちょっとした思いやりのある行動が、未来の多様な社会を生きる子どもにとって大切な経験になるかもしれません。
スクールFC代表 松島伸浩