『桃李成蹊』 2022年1月
ご存知の方もいるかもしれませんが、「成蹊」の学園名は、「桃李もの言わざれども下自ら蹊を成す」という史記の「李将軍列伝」の中で、司馬遷が李広将軍を讃えるのに使った故事成語に由来しています。ずいぶん以前にこのことを知ってからは、私の好きな言葉の一つになりました。
桃(もも)や李(すもも)は、美しい花を咲かせ、おいしい実をつけます。それらにひかれて人や動物が集まるので、桃李の下には自然と道ができます。そこから、徳のある人を「桃李」、人が集まる様子を「道ができる」として、徳のある人間のもとには、何も言わなくても自然と人が集まってくるものだと例えているのです。またそうしたことから、「だれからも慕われるほどの高潔な人であれば、自然と人に恵まれるようになる」という理想のリーダー像を表す言葉として使われるようになりました。
李広は、モンゴルの一大勢力であった匈奴(きょうど)を討伐する際に、「飛将軍」と恐れられるほどの猛者でした。一方でその人柄は、口数は少なく清廉潔白で、食事の際は自分よりも部下を優先させ、自分の恩賞も部下に分け与えたほどの人物だったそうです。私の経験からも優れたリーダーには潔く温情に溢れた方が多いと感じています。
入試問題でよく出典される外山滋比古さんの著書では、この故事成語を引き合いに出して、次のようなことを言っています。
たまたま、長い列がある。何のために列ができているのかはわからないが、列があるのは、いい ものを売るのに違いない。それが何かは、並んでから、ゆっくりきいてもいい。早く しないと、売り切れということになっては大変だ。(中略) これを群集心理というのである。(中略)〝桃李もの言わず下おのずから蹊を成す〟これはよろしい。しかし、逆はかならずしも真ではない。1
この前段に、並んではみたものの、なんでもない道具ですでに持っているものだったいうくだりがあるのですが、つまり人気のあるものが必ずしも自分にとって良いものとは限らないと言いたかったのだと思います。
これは学校選びに通じるところがあります。偏差値は人気によって上下します。募集定員以上の受験生が集まれば、その翌年の偏差値は上昇します。学校改革による校名変更や共学化、新しいコースの設置などが行われると、それまで定員に満たなかった学校の偏差値が大きく上昇します。入学生や卒業生も出ていない状況でも高倍率になれば変わるわけです。もちろん、学校側も存続をかけ、過去のイメージから脱却して新たな学校づくりに本気で取り組もうとしていますから、そうした姿勢に期待されるのもうなずけます。
相対評価である偏差値や募集定員の関係から、上がる学校があれば下がる学校もあります。ここで注意したいのは、下がっている学校の教育内容が悪くなっているわけではないということです。2021年の入試では、20年前くらいまで偏差値の上位を占めていた名門女子校が人気になりましたが、そうした学校は大々的な学校改革はしなくても、伝統を守りながら新しいことに地道に取り組んできた学校です。目立たないだけで中身はすばらしい学校はほかにもありますから、そうした学校も「スクールラジオ」で紹介していきたいと思います。
さて、いよいよ2月の入試が始まります。FC・道場・TECH生のさらなる活躍を期待しています。保護者の皆さまにとっても一番大変な時期ですが、最後までわが子の合格を信じて、元気に前向きな応援をよろしくお願いいたします。皆さまにとって、意味にある幸せな受験になりますことを願っています。
スクールFC代表 松島伸浩