『学ぶ順序』 2022年3月
先日、『英語習得の「常識」「非常識」』(大修館書店)という本を見つけました。この本は、世間に流布する外国語学習や第二言語習得に関する俗説を取り上げ、それらが正しい根拠に基づいた説なのかどうかを検討することを目的に書かれています。※1
小学校では英語が教科となり、習い事としての英語塾が盛況と聞きます。「英語は早くから始めたほうがいいのか」「聞くだけで英語は身につくのか」など、英語習得に関する記事をよく見かけますが、本書では複数の大学の研究者が、そうした世間で言われる俗説の真偽をさまざまな論文や文献から検証していて、大変面白い一冊でした。
特に興味深かったのは、「教科書で習った順番に覚えていくのか?」というテーマです。私を含め小学校で英語を習わなかった世代は、中学生になって英語を習い始めたわけですが、果たしてそれは習得しやすい順序で学んでいたのかという検証です。英語を6年間学習した高校生の発話データをもとに実際に習得できた順序と、学校教科書の「New Horizon」の学習順序を比較した表が示されています。それによると教科書では、be動詞、不定冠詞(a、an)、定冠詞(the)の順に出てくるのに対して、習得しやすいのは、be動詞、進行形(ing)、所有(‘s)の順で、不定冠詞は6番目、定冠詞は10番目とあとから習得しています。2番目に習得しやすい進行形を教科書で学習するのは7番目なのです。教科書は、英語を使ったコミュニケーション活動がしやすく、基本的な文法構造を先に教えるという考え方で構成されていますが、それが習得しやすい順序であるとは必ずしも言えないということでした。※2
この話はあくまでも日本人の第二言語習得における学習の順序の検証でしたが、受験算数においての学習の順序について少し考えてみたいと思います。
現在の多くの進学塾のカリキュラムは、約2年間で入試に必要な単元を網羅するようにつくられています。同じ単元は一定の期間をおきながら低次から高次なものに段階的に進む形になっています。学習する順序は、たとえば今週はつるかめ算、翌週は平面図形というように代数や幾何が混在して出てきます。こうした中では子どもの得意不得意・好き嫌いによって、先週のテストは良くできたけど、今週は全然できなかったというようなことがよく起こります。
受験算数において学ぶ順序に一番影響を与えているのは計算です。わり算、小数、分数の計算ができないと、そもそも扱えない単元が多いため、その前の段階でそれらを学んでおく必要があるのです。同様に応用の段階に入ると比を利用した問題が中心になりますから、その際も比の学習が先になります。
実は小学校や中学校の教科書の順序も、1学期に計算を学んでから2学期以降に代数や幾何を学ぶようになっています。学校では計算について学ぶ時間がたっぷりありますが、受験算数ではとても短い期間で学習しなければなりませんから、日ごろの家庭での計算練習がとても重要になるわけです。
最近の受験カリキュラムは、以前よりも進度が速く難易度も上がってきています。しかしあくまでもそれをこなせるのは一部の子どもに限られています。5年生までは手を広げ過ぎず基本をしっかり身につけることが大切です。それでも苦手な単元は出てきますから、そうしたものは6年生でもう一度やり直す機会があります。
受験は長期戦です。テキストの順番通りに取り組んでも、スーッと理解できるもときもあれば、そうでないときもあります。親も子も精神的に安定しているときもあればそうでないときもあります。成績も山あり谷ありで、そうした紆余曲折を経ながら、最後の一年間で目標に向けて必要な力を補っていけばよいのです。
今年度よりスクールFCでは、一部の学年・教科において、無理なく学習内容を習得できるよう、講習会の中でも新規の単元を扱うカリキュラムに改訂をしております。ぜひご家庭の予定を立てる際には、講習会の日程も確認していただければ幸いです。
スクールFC代表 松島伸浩
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※1白畑知彦・編著 若林茂則/須田孝司・著. 英語習得の「常識」「非常識」~第二言語習得研究からの検証~. 大修館書店. 2013. ⅲ.
※2白畑知彦・編著 若林茂則/須田孝司・著. 英語習得の「常識」「非常識」~第二言語習得研究からの検証~. 大修館書店. 2013. 25-26.