『受験当日まで伸びる』 2024年1月
ここ数年「学び直し」や「リスキリング」という言葉をよく見かけるようになりました。私のまわりでもプライベートな時間を使ってスキルアップのための勉強をしている人が増えています。
知人の塾経営者は、数年前から休みの日に大学院に通い始め、現在は博士課程に進んでいます。塾の授業と経営、雑誌の連載や本の執筆など多忙を極めながらも学び続けるその姿には尊敬の気持ちしかありません。AIを搭載したアプリが英会話講師に取って代わる時代です。私たち塾講師も常に学び続ける必要があります。仕事に関連する専門分野を磨くのもよし、一見仕事とは関係ない、ときに趣味を極めるのもよし。学び続けている人はそれだけでも魅力的に映ります。
昨年節目の年齢を迎えたのを機に、ワインエキスパートという資格に挑戦しました。ワインは8000年という世界最古と言われる歴史があります。世界のワイン産地を学ぶことで、その土地の歴史、風土、文化などを知るよいきっかけになるのではないかと考えました。一般的に知られているソムリエという資格は、3年以上の関連職種の実務経験と現職であることが受験要件です。しかしワインエキスパートは満20歳以上であればだれでも受験するこができます。1次のCBT試験と2次のテイスティング試験はソムリエ試験とほぼ同じ内容で、3次試験の「サービス実技」だけがありません。受験の申し込みをすると、日本ソムリエ協会から860ページの教本が送られてきます。1次試験はこの教本から出題されるのですが、フランス語やイタリア語、ドイツ語などの固有名詞のほか、出てくる専門用語もほとんど聞いたことがないものばかりです。普通は半年から1年の準備期間が必要と言われる試験ですが、申し込んだ時期が遅く、1次試験まで2か月半しかありませんでした。当初は、仕事がある日は帰宅後の1時間を勉強時間に充て、休みの日は8~10時間、通勤時間を利用してスマホで問題演習を行うという計画を立てました。しかし、どうしても仕事の関係や自分への甘さから予定通りには進みません。計画は立てても思うように進まない受験生の気持ちがよくわかります。このままでは間に合わないと判断し、一旦全範囲を終わらせるために、1ページずつ丁寧にやるやり方から、ポイントに絞って進めるやり方に変更しました。2か月が経った頃、ようやくひと通りの学習が終わり、そこからはひたすら問題演習に時間をかけました。そんななか、練習のために受けた模擬試験の解説動画で「今年は出題形式が変わるかもしれない。選択問題だけではなく記述問題が出る可能性もある」という話があったのです。ぎりぎりの勉強しかしていない私にとっては不利な情報にも思えます。しかし、これまで「出題形式や傾向が変わることは受験にはつきもの。みんな条件は同じ」と受験生には言ってきましたので、「事前の心構えができてラッキー」というくらいに前向きに捉えるようにしました。いずれにしても不確かな情報に振り回されても仕方ないと覚悟を決め、勉強のやり方は変えませんでした。実際に本番では例年よりも難易度が上がったように感じましたが、直前に勉強した内容が出題されるなど運にも恵まれ、最後まで冷静に取り組むことができました。
2次試験は自信が持てるような内容ではありませんでしたが、限られた時間のなかでやるだけのことはやったという満足感だけはありました。そしてその一週間後の発表の日、ホームーページに自分の受験番号を見つけたときは、嬉しさというよりはホッとした安堵の気持ちのほうが強かったように思います。単なる資格試験の話ではありますが、久しぶりに受験する側の気持ちを、身をもって感じられたことは、仕事のうえでもよい経験になりました。
受験の世界には「受験当日まで伸びる」という言葉があります。私自身も試験直前の一週間が一番伸びたという実感があります。実際に本番直前から当日にかけて急成長する受験生の姿を何度も見てきました。最後の入試が終わるまで、あきらめることなく、その可能性を信じて挑戦してほしいと願っています。
スクールFC代表 松島伸浩