松島コラム 『方法の有効性』

『方法の有効性』 2024年11月

 出版不況という言葉をときどき耳にしますが、日本では年間7万冊の新刊が出ているそうです。書店に行けば、「〇才から始める英会話」「〇〇式受験必勝法」など、いわゆるマニュアル本をたくさん見かけます。しかしそのとおりにやってみてもうまくいかないのが世の常です。だれにとってもうまくいくような方法であれば、すでに多くの人に広まっているはずですから、改めて本にする価値はありません。結果的には特定の条件のもとで成功した事例が中心になるわけです。もちろん、そうした事例が役に立つこともありますが、妄信は禁物です。やや誇大に感じるような本のタイトルは、出版社の意向によってつけられたものも少なくありません。それを踏まえて中身をしっかりと確認してから購入されることをおすすめします。
 本質行動学という学問のなかに「方法の原理」という考え方があります。「方法の有効性は、状況と目的に応じて決まる」という言葉にしてみれば当たり前のことなのですが、前例や慣習、自分自身の経験や外の評判にとらわれたり、唯一の正しい方法があると信じ込んでしまったりして、前に進んでいるように見えて、実際には後退しているという落とし穴があるというのです。
 学習においても、子どもの性格や学力、成熟度や目標、さまざまな要因によってやり方は違うはずですし、そのプロセスもひとりとして同じではないと考えるほうが自然です。たとえば「宿題はたくさん出たほうがいい」「学習時間は長いほうがいい」というのは、成績を上げるための正しい考えのように見えますが、果たしてそうでしょうか。基本的な計算力が足りていない子どもには、その部分だけを強化するために一定の宿題量は課さなければなりません。しかし、すでに十分な基礎がある場合は、同じような計算を大量に出すことに意味はありません。以前、私の教室の生徒が学校の宿題を自学室でやっていました。「学校の先生から20回ずつ漢字練習するように言われたけど、全部書けるんだよね」と言いながら、へんはへん、つくりはつくりでバラバラに書いて宿題を終わらせていました。漢字は得意な子でしたから、「そういうやり方は良くないよ」と言えない自分がいたのを覚えています。学習時間も長ければ長いほどいいわけではありません。人間は無限に集中できるわけではありません。長くなるほど効率は悪くなり、記憶力も低下します。もちろん、受験生の追い込みの時期は、長時間がんばることも必要です。しかし無理をして体調を崩すのも本末転倒です。ここでも、方法の有効性は状況と目的に応じて決まるのです。受験勉強にしても、万人にとって先取りがよいわけではありません。むしろ、学習の土台になるような部分では、時間をかけてじっくりと学んだほうがよい子もいます。子どもによってやり方は変えていいのです。
 学校選びについてもしかりです。私が塾講師を始めた頃は、高学歴からの一流企業就職路線が、人生の幸せを手に入れる近道のような社会的風潮が根強い時代でした。「偏差値は高ければ高いほどいい」という確固たる信念をお持ちの保護者も、いまと比べると多かったように思います。しかし、最近では、だれも経験したことがない未来の課題をどう解決し生き抜いていくのか。そのために必要な教育とは何か。偏差値だけで判断せず、学校の中身や将来性に注目し、「わが子に受けさせたい教育をその学校は提供してくれるのか」というようなことを重視するご家庭が増えているように感じています。
 スクールFCは毎年200校近い学校に合格者を出しています。100人いれば100通りの学校選びがあり、その過程もさまざまです。これからも、それぞれのご家庭にとっての幸せな受験の実現を応援してまいります。

スクールFC代表 松島伸浩