西郡コラム 『やり抜く力』

『やり抜く力』 2018年12月

 自分の限界を破り、可能性の領域を広げるためには、やり抜いた経験の蓄積が必要だ。西郡学習道場では、毎月一度、日曜日の朝から夕方まで8時間の長時間学習をする道場特訓を行う。一ヶ月の学習内容の復習を中心に、回によっては漢字特訓だけ8時間など、徹底的に特訓するということもある。
 道場特訓の朝、参加する子どもたちはみなブーブー文句を言いながらやってくる。「子どもがどうしても行きたがらないんです」と保護者から連絡が入ることもある。開始直後、イヤイヤ勉強を始めて、なかなか集中できず、ソワソワした雰囲気になる。しかし、ある程度やり込んでいるうちに、諦めたのかどの子もすーっと力が抜けていく。そこから本当の集中力が生まれる。終了時には、8時間やり切った解放感と達成感を味わう。「大変だ」「やりたくない」ならば、「そこでやめていい」ではなく、もうひと押しすることで、無駄な抵抗は消え、無駄な力も抜け、目の前の課題に集中することができる。
 もちろん、意志の強い子ばかりではない。だからこそ、自力では到達できない領域へ導く道場特訓がある。他者がもうひと押ししてあげて、環境をつくり、それから先は自分で向かう。最後までやり抜いたという達成感が、自分はできるという自己肯定感を育み、もっとやってみようという学習意欲につながる。そして、子どもが何かを最後までやり抜いたときには、その成果ではなく、やり抜いたことそのものを評価してあげることが大切だ。
 中学校の野球部で3年間、補欠だった生徒がいた。結局、彼は公式戦で最後まで一度も打席に立つことはなかった。「たとえ補欠でも、最後までやり抜いたことは、レギュラーになる以上に価値がある」と彼の親は彼に伝えたそうだ。その言葉をきっかけに、自分自身を認めることができた。もし途中で部活を辞めていたら、レギュラーになれなかったという劣等感だけが残っていたかもしれない。レギュラーになれなかった悔しさは、次なる挑戦へのバネになる。バネにすることができるのも、やり遂げた達成感があるからだ。

 「すぐにできるものはない。
          だから続ける」
 「あきらめない、何か方法はある」
           (道場心得)

 何かをやり遂げたという経験は、その後の人生にも大きな影響を及ぼす。ただ、継続するだけではなく、創意工夫をしながら、試行錯誤を繰り返し、間違いという壁にはね返されながらも解決方法がないか探し求めることで、よりよい結果へと向かう。やり遂げるまでの過程も重要。ただ、まずはやり遂げる経験を積むことだ。「経験を積んだ」という絶対量がいる。過去にやり遂げたことが多ければ、何かの困難に直面したとき、「何とかなる」「糸口はある」と前向きにとらえることができる。だから、続けることもできる。
 やり抜く経験を社会に出てからするのは、なかなか難しい。仕事では、どこまで取り組めばやり抜いたと言えるのか、明確な区切りもない。大人になるまでの間に、何かをやり抜いたという成功体験を得ることは、その後の人生に大きな影響を与える。「これ以上は無理かもしれない」というような限界を感じたとき、それでも壁を乗り越えていく。そうした力を育てたい。

西郡学習道場代表 西郡文啓