『自分を律することが、学力を伸ばす』 2019年2月
自分を律するのは、モラルやルールを守ることから始まる。しっかり睡眠をとり、朝はすっきりと起きて、ごはんをきちんと食べる。睡眠や食事は、身体や脳の成長土台を築く大切な習慣の一部である。同様に、挨拶をする、約束を守る、といった生活規範を正すことも、自分を律することになる。
何らかの事情で、塾や習い事に行けなくなったり、友だちと会う約束を守れなかったりした場合、子ども自身が、相手へ直接連絡をする。どういう理由であれ、約束を守れないことは、相手の信頼を失うきっかけになるかもしれないからだ。小さいことであっても、自分事として現実を捉え、自分の行動に責任を持つ経験こそ、当事者意識が育まれる。まさしく、学習に対する意識改革の第一歩と言える。
たとえば、出された課題をやってこられない子がいるとする。「家できちんと課題をさせてください」とこちらから保護者へお願いする方針もあるだろうが、道場は違う。できなかった/やらなかった課題を子どもにそのまま持ってこさせる方針を道場ではとっている。なぜなら、課題も約束の一つだからだ。そして、ここからが大事。子ども自身に「なぜ課題ができなかったのか」を問う。課題をやってこられない/やってこない自分と対峙することが目的だ。「なぜ土日にできなかったの?」と聞くと、「週末は家族で出かけていたから」と、もっともらしい言い訳をする。おそらく、嘘はついていないだろう。しかし、数日の中で課題をやる時間が数分もなかったのだろうか。全部やってこられなくても、できないならできる時間をつくる努力をしただろうか。これを子どもへ問いかけているのだ。
課題をやることは、自分を律する訓練。自分自身の責任で果たすという自覚を促していく、成長の機会である。だから、保護者の方へ「子どもの課題には手を出さないで、ただ見守ってください」と伝えている。
モラルやマナーは、基本的なしつけの範疇だ。子どもはその環境で育つ。貧富ではなく、むしろ生活規範がしっかりできているかどうかで、生活水準が定まる。当然、生活水準が高い家庭で育つ子どもが自分を律することができている。
約束を守ることができなければ、社会の中で適応していくことは難しい。また、やるべきことを自分自身に課し、できないときにどうすればいいかを考えられる人間になるという意味でも、自分を律することは重要だ。ただし、すぐには身につかない。だから、自分を律する訓練をしていく。そして、次第に学習の土台もつくられていく。
自分を律することで大切なのは、自分に正直になることだ。学習で言えば、できたふりをしない、自分をごまかさないこと。“できない”という事実に直面できるかどうかが、今後の生き方の分岐点になる。頭がいいとか、悪いとか、持って生まれた能力は関係ない。自分を律することは、後天的に適切な訓練を通して培うことができる。ただそれは、特別なことではなく、先にも述べたように、挨拶をする、決まった時間に起きる、三食しっかりと食べる、時間や約束を守るなど、当たり前の生活習慣を行うことから始めよう。
西郡学習道場代表 西郡文啓